人は幸福になることが目標だと言われることがあります。50代になってくると生活が安定してくると、幸せがなんなのかぼんやりしてくる人もいるかもしれません。そこで趣味を持つと、人生の指針となる人もいます。耳鼻科医の鈴木香奈さん(49歳)は、伝統芸能をやることで、人生にメリハリができたと話します。
幼い頃の踊りの体験がきっかけ
「金沢市は伝統芸能が盛んです。3歳のときに近所に踊りの先生が出稽古に来てくれるということで参加したのですが、どこか惹かれるものがあり、続けることにしました」(鈴木さん・以下同)
日本舞踊には男踊り、女踊りがあり、女性でも歌舞伎のような隈取りをして男性の格好をして踊ることがあります。鈴木さんは、男踊りが多かったそうです。
「私は背が高いこともあり、力強い男踊りがしっくりきました。もちろん、お姫様のような格好も憧れて女踊りもしています(笑い)」
◆高校生で藤蔭流名取に
鍛錬を重ねた鈴木さんは、高校生で藤蔭流名取になります。
「家元が六本木(東京)にあったので、お師匠と一緒に金沢から家元に行って、課題の日本舞踊を披露し、お免状をいただきました。3歳から15年間続けたので嬉しかったです」
篠笛との出会い
鈴木さんは名取にまでなりましたが、大学に入ると勉強が忙しくなり、日本舞踊に通えなくなりました。しかし長いブランクの後、仕事が安定した40歳に再開します。
「それから7年ほど続けたのですが、高齢のお師匠が亡くなってしまいました。その頃、篠笛と出会いました」
◆多彩で繊細な音に感動
篠笛は篠竹に穴を開けたシンプルな横笛で、フルートにも似ています。
「3年ほど前に日本舞踊のイベントで篠笛の音色を聞いて、感動しました。無骨な見た目に反して、非常に多彩で繊細な音を奏でるんです。こんなに単純な楽器に見えるのに、なんて綺麗な音が出るのかと魅了されました」
日本の伝統芸能に触れての変化
ゆったりとして見える日本舞踊や篠笛ですが、スローな動きだからこそ、体幹がしっかりしていることが重要だと鈴木さんは言います。
「ゆっくりと動く日本舞踊は、筋力を一定に支えていないと動きがぶれて見苦しくなります。篠笛も座って笛を吹いているだけの動きに見えますが、30分のレッスンを終えると、服が湿るほど大汗をかいています。猫背が治って背筋が伸びましたし、体も鍛えられました」
◆プライベート、仕事でも役立っている
日本舞踊や篠笛で、舞台に立って三味線、太鼓、生歌と共演する経験が、プライベートでも役に立っていると言います。
「度胸がつきましたし、仕事を俯瞰的に見られるようになりました。それは深く別世界に入り込めたからだと思います。想像力が豊かになるので、先回りをして患者さんに対する言葉がけが柔らかくなったり、思いやりにつながっていると感じることがあります」
日本舞踊も篠笛も精神統一して鍛錬するので、集中力が増してメンタルも強くなったそうです。
集中力を増進するにはオン・オフのスイッチを
「篠笛も日本舞踊も、音楽が好きであれば適正があると思います。篠笛は最近、ポピュラーな邦楽を吹くこともあります。ピアノなどの大きな楽器に比べて篠笛は持ち運べるし、2000~3000円で買えるので、どなたにもおすすめです」
◆「趣味は生きがいです」
「豊かに暮らすには、仕事などの緊張感がある場面とプライベートで、オンとオフの切り分けが大事だと思います。趣味に集中して打ち込むことは、ストレスから解放される大切な時間です。私もリフレッシュや頭の切り替え、そして癒しのために趣味を活用しています。
もし私に趣味がなかったら、ストレスが発散できずに生活にメリハリがなく、悶々としてしまうかもしれません。私にとって、趣味は生きがいです」
この人に聞きました:耳鼻科医・鈴木香奈さん
1971年8月3日生まれ。石川県出身。1996年に金沢医科大学卒業。北陸では初となる睡眠時無呼吸症候群SAS専門クリニックとして、2003年金沢駅前ぐっすりクリニックを開院。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本睡眠学会会員。http://www.gussuri.jp/kanazawa-index.html
取材・文/小山内麗香
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