
飾らない自然体の魅力で、同世代の女性から高い共感を得ている女優の大塚寧々さん。自身も陶芸が趣味という大塚さんが、「一番会いたかった」という人気陶芸家・吉田次朗さんと対談。女優、陶芸家それぞれの立ち位置から見たコロナ禍と、そこから見えてきたものについて語ってもらいました。
大切にしたいことがより明確になった
新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの日常は大きく変化し、今なおニューノーマルな生活は続いている。大塚さん、吉田さんそれぞれにも、コロナ禍の影響は少なからずあったという。
大塚:私の仕事は、ノーマスクの状態ですごく近くで叫んだりしゃべったりすることも多いので、そういう意味ではコロナ禍でできなくなったことが増えましたし、限られた時間の中でやるようになりました。だからこそお芝居できることの幸せや、普段芝居ができていることが当たり前ではなかったということが改めてわかりました。
吉田:ぼく個人の展示会が延期になったりはないんですが、作家さんがいっぱい集まるクラフトフェアのようなイベント的なものは中止になったこともありました。

大塚:これまで世の中全体が“行きすぎてた”部分もあるんじゃないかなと感じました。物もそうですが、過多だったこともあるのじゃないかと考えさせられました。コロナによって気づいた人たちも結構いると思います。
仕事をするのも大切だけど、散歩をしたり昼寝したりする時間も大切。そのほうが力が抜けていいものができたり、人の気持ちをもうちょっと考える余裕ができたりもする。もともと持ってる感覚も研ぎ澄まされてくるんじゃないかな。水がおいしいとか、風が気持ちいいとかも感じられると思うし。
吉田:ぼくもみんなが大切にしたいことがより明確になってきていると思います。コロナのせいにして、嫌なことはやらなくてよくなった、みたいなところもありますよね。本当にやりたいことだけをやりやすくなってる。もちろんコロナ禍は大変なことではあると思うけど、ぼくにとっては良くなった部分も多いんです。
器を大切にとか、好きなものを使おうって思ってくださるのも、コロナ禍で自分の身の回りの好きなことに一生懸命になって、自分の時間を大切にするようになったからこそ。コロナに気をつけながら、ちょっとの楽しみのために作品展に来てくださるのはすごく嬉しいし、ぼくが作った作品を使ってもらってるという喜びもあります。

ぼく基本、工房に引きこもってしまうと、気がついたら1~2か月、家族以外の誰ともしゃべってないってことがザラにあるんです。でもコロナが始まった頃に姉と母に誘われて、朝、Zoomにいろんな人が集まって交流してたことがあるんです。
そこでは英語の歌の練習から始まって、ウクレレを弾いたり、ラジオ体操したり呼吸法を教えてくれる海外にお住いの日本人がいたり、力を抜くのにいい体操を教えてもらったり、毎週誰かの誕生日をお祝いしたり…。ぼくの場合、むしろコロナ禍のZoomで全然知らない人と知り合って、交流の場が広がってるぐらいです(笑い)
若手陶芸家の腰痛を支える体操とは
吉田:そのZoomで教えてもらった「VIM体操」っていう体操がめちゃくちゃ自分に合ってて、今もすごくハマってます。作品を作り始めると気づいたら同じ格好で5時間も作業していた、ということがザラにあるんで、やっぱり腰とかがすごく痛くなるんです。

普通は体のつらいほうにばかり目を向けるでしょ? でもこの体操はそうじゃなくて、自分が楽に動くほうでしっかり呼吸をしてやると、痛いほうの縮まってた部分がゆるんで痛みが取れるんです。
大塚:それって今は運動の話ですけど、あらゆることに言えることですよね。
吉田:そうなんですよ。自分が楽で気持ちいいなということに目を向けようということ。これをやるようになってめちゃめちゃ調子がいいんですよ。寝る前も起きたときも、これがないともう生きていけないぐらい(笑い)。大塚さんは太極拳をされていますよね?
大塚:もう5年くらい続けています。太極拳も体さえあればいいので、同じような感じです。力を抜いてゆっくりストレッチしながら体を動かしていくものですから。
芝居にはプロたちみんなで1つのものを作り上げる楽しさがある
体操や太極拳のおかげもあるのだろうか。2人ともストレスとはあまり縁のない、いつも一定の穏やかな空気をまとっている印象が感じられる。
大塚:あんまり自分で何かがストレスとかって思ったことがないですね。セリフを覚えたりするのは確かに大変かもしれない。でもストレスとは違うかな。「大変」という感覚です。“このセリフの量でしかも明日まで!”ということもありますから。
中学、高校のときに中間試験とか期末試験あるじゃないですか。それって勉強をやらなきゃいけないことじゃないですか。でもそれがストレスっていう感じではなくやらなきゃいけない大変だ!って。そういう感じです。

吉田:わかりやすい! 大塚さんは、セリフをどうやって覚えるんですか?
大塚:皆さんそれぞれだと思いますが、私はずっとブツブツ言いながら覚えるまで1行ずつ台本をずらしていくと、ページが頭に残っています。演技は生ものなので、台詞通りに行かないことも多々あります。それも面白さのひとつかもしれないですね。
それに芝居は、いろんな分野のプロの方がいて、みんなで1つのものを作り上げるのが楽しさの1つかもしれません。陶芸で作品を作ったりするのは、自分1人で作り上げていく楽しさという感じなのでしょうか。
自分が繋がりたいものと一緒に作っている感じがする
吉田:ぼくの場合は、例えば展示会があれば、そのギャラリーの方が空間を作ってくださって、それは作品と一緒に空間を作り上げている。あとはやっぱり素材と一緒に作ってるっていうこともあるし、1人ぼっちっていう感じでもないですね。
いろんなところでやっぱり繋がってるというか、作るときに、あの人これ好きそうだなって思い浮かぶときもあるし、ああいう空間だからとかこういう季節だからとか、その時々に自分が繋がりたいものと一緒に作っている感じがするんです。

人と一緒にやっていても楽しいです。誰かと作業をしているときに、こんなの見せようかな、あんなの見せようかなって楽しくなるところもあるし、じっくり1人で集中してやるときもある。ただ誰かのペースに合わせるのは苦手だと思います。
一番楽しいのは、完成した作品をギャラリーに持って行って飾っているとき。展示が始まるとやっとお休みだ! みたいな感じになります(笑い)。酒もいっぱいいくらでも飲めるし、美味しいもの食べに行けるぞって。
大塚:芝居はその話にもよるんですけど、ひとつひとつ地道な作業を積み重ねていくことが意外に多いので、そういうことがあとで考えると心地よい疲れになっているかもしれないですね。スッと芝居に入っていくときはすごく“楽しい”ですよ。
吉田:確かに集中してるときは楽しい! 夢中というかそういう感じですよね。夢の中で自由に動いてるみたいな感じで、気持ち的にはいろんな所に行ったり戻ってきたりを繰り返している。
大塚:役者の仕事もそんなふうに無心になれることも楽しさの1つかもしれないですね。

◆大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。
◆吉田次朗(よしだ・じろう)
陶芸家。1979年生まれ。東京都出身。東京都立工芸高等学校で陶芸に出合い、全国から才能のある陶芸家が集まる「studio MAVO」(岐阜県多治見市)で本格的な製作を始める。その後、山口県の大津島、宇部市を経て、現在は岐阜県に工房を構え、全国のギャラリーなどで個展を開催。
http://www.yoshidajiro.com/
https://www.instagram.com/yoshidajiro/
撮影/網中健太 ヘアメイク/長縄希穂(マービィ) スタイリスト/安竹一未(kili office) 取材・文/田名部知子
撮影協力/うつわ菜の花
神奈川県小田原市南町1-3-12
※企画開催時のみ営業
http://utsuwa-nanohana.com/?page_id=3173
大塚寧々さん衣装/ワンピース(ラリーニュ ロペ/ジュンカスタマーセンター)、ストール(スロー)、ブーツ(ロランス/ザ・グランドインク)イヤリング、リング(すべてラミエ)
ザ・グランドインク https://www.laurence.jp
ジュンカスタマーセンター https://www.rope-jp.com/laligne_rope/
スロー https://www.throw.co.jp
ラミエ http://www.lamie-lamie.com