
専業主婦から17年ぶりにキャリアを再開して今は外資系ホテルの日本法人社長を務める薄井シンシアさん(63歳)。連載「もっと前向きに!シン生き方術」では前回に続き、薄井さんと、フリーランスとして経営者の業務サポートやマネジメント、企画・運営などを行う井上真理子さんの対談をお届けします。対談第2弾のテーマは「美」。外見を美しく保つことの意味やポイントについて、お2人に本音で語っていただきました。
心が美しいことがまず大事
――シンシアさん、真理子さんはその美貌をどう維持されているんでしょうか。いわゆる“美の秘訣”をうかがえますか?
シンシアさん:美貌は私のイメージに合わない言葉(笑い)。真理子さんはお美しいですよね。それにヘアメイクの仕事もしていらしたから色々と聞きたい!

真理子さん:いろんなかたにお目にかかってきて思うのは、お化粧しなくても美しいかたっていらっしゃるんですよね。そういうかたは、品性があるんですよ。そういう発想がそもそもないというか。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、心映えや行いが美しい人は姿かたちも美しく見えるものなのかもしれません。なので、私も普段から品性を心がけて振る舞うように気をつけています。
シンシアさん:やっぱり年齢を重ねての“美”って確かにあると思う。生き方の美なんですよね。年配の人を見て、何か軽んじたりバカにしたりする若い人がたまにいますが、そういう人には「あなたの場合は年齢を重ねてどうなっていくのか、さあ見ものだね」って思っちゃう。
顔のイメージアップは肌ケアから
――メイクアップ術や美容法、ウェルネス(適度に運動を取り入れるなど、健康的に日々を送るライフスタイル)といったところはいかがですか?
真理子さん:私自身は化粧品にお金をかけないんですよね。若い頃は高価なブランドもののコスメを揃えて、スキンケアも美容液や乳液などいろいろと使っていましたが、今はシンプルなケアにしています。逆に、メイクする日を減らして、肌に負担をかけないようにするとか、そういう考え方になってきました。

シンシアさん:私は特筆すべきことと言ったらレーザー(美容外科のレーザー治療)かな。初めて施術してもらったのはバンコクにいた頃で、たしか47歳のとき。その頃、肌がくすんで色がまだらになってきたのが気になっていて。そんなときに、友人がレーザー治療を受けるから通訳お願いって言うので、付いて行ってあげたんです。その人が日に日にきれいになるので、周りもレーザーを始めて、その人たちの通訳も私がしました。結局、周りが一通り経験した辺りで、それじゃ私もそろそろやろうかなって。慎重なんです(笑い)。
やってみたら、1回目はあまり効果を感じなかったけど、2回目が済むと、化粧ノリが全然違ってきて、顔色も明るくなったんですよ。私自身もそう感じていたし、周りもすぐ気が付いてくれた。PTAの会合でスピーチしたら、終わった途端にみんなから質問攻めに遭いました。「何かやったんでしょう!?」って。私はそういうことを隠さないから「うん、レーザーやったんだよー」って(笑い)。それから年に1回程度メンテナンスに行っています。今はコロナ禍で休んでいますけど。
真理子さん:私は美容外科でも看護師をしていた時期があるのですが、若い子は目や鼻や、要は造形を変えたがる。それが、40代からは皆さんアンチエイジング関連の治療を受けるようになりますね。リフトアップだったり、レーザーでシミを取ったり。やっぱり肌がきれいだと印象が変わるんですよ。若く見えるし、清潔感がある。

ヘアメイクの勉強をしていた頃も、「肌が8割」「ベースメイクが一番大事」と教わりました。頑張ってアイラインを引いても眉毛を上手に描いてもそれだけではきれいに見えないんですよね。
シンシアさん:肌は大事ですよね。年齢を重ねていくと、乳液なんかを塗ってケアしても、あまり効果を感じられないことが多い。だからレーザーが必要だなって私は感じているんです。施術を受けると、まるで1000本の針が肌の奥まで入り、眠っていた肌を起こしてくれるような感じなんですよね。
真理子さん:レーザーは肌を刺激するんですよね。ニキビのクレーターや、毛穴の黒いポツポツを取ったりとか。一口にレーザーと言っても、看護師が施せる簡単なものもあれば、麻酔が必要なほど痛みを伴うものもありますけどね。
見た目のよさは自己管理できている証
――他に、美容に関して大事にしていることはありますか?
シンシアさん:言うまでもなく、運動や食事は大切です。私は運動が好きじゃないけど、ジムに通ったり、一駅手前で電車を降りて歩いたり、日常の中でできる運動を続けています。食事も味や気分より栄養バランス重視ですね。極端に言えば、顔はお金で買えるじゃないですか。それこそレーザーもあるし、人によっては美容整形をする人もいるし。でも体(の健康)は買えない。だから、自分で意識して体をつくっていくしかないんですよね。
私、美容に対して何も対策をとっていなかったら、今のキャリアはなかったと思うんですよ。レーザーで顔のメンテナンスをして、体のほうは自己管理を徹底して、だから(日本に帰国して職を探し始めた)52歳のときも見た目がそこまで老け込んでいなかった。その自信があったから積極的に動けたと思います。

真理子さん:誤解を恐れずに言うと、やっぱり見た目って大きいです。本人の心に与える影響が大きいと思う。
シンシアさん:そう思います。みんな言わないけど。
真理子さん:太っているときは人に会いたくなくなるし、肌が荒れているときも外に出たくないと思ってしまう。そういう気持ちの動き方ってわりとみんなそうで。だからいろんなことに対して前向きに動くためにも、自分を美しく保つのは大事なことだと思います。
シンシアさん:生まれつきの顔立ちとか体質とか、人それぞれだし、何を美しいと思うかも人それぞれだけど、見た目から「この人はしっかり自己管理ができる人だ」という印象を与えられるような姿でいることって大切だと思うんですよ。「見た目じゃないよ、内面だよ」と言う人もいるけど、見た目も大事。
真理子さん:どっちがどっちって言えないところがありますよね。見た目が変わったから内面が変わることもあるし、内面が変わって見た目が変わることもあるし。密接なつながりがあると思います。
シンシアさん:だいたいの場合は、内面を知る前にまず外見が目に入るわけだし、だったら見た目でまず信頼や好感度を勝ち取る必要がありますよね。それをみんな言わない。私の娘が大学に入ったばかりの頃、3か月ほどで急に体重が増えたことがありました。そのときも友達からは「太ってなんかいないよ」「気にすることないよ」と言われたそうなんです。でも、そこは本当のことを言ってあげたほうが親切だと思うんですよね。
真理子さん:言いにくいことを言ってくれるほうが、愛がある気がします。言わないどころか、ダイエットを頑張ろうと思っているのに「太ってなんかいないよ、ダイエットしなくてもいいよ」とまで言ってくる人って私なら、ひょっとして他人の足を引っ張りたい人なのかもと疑ってしまうかも。
もっと自分を大事にするということ
――短期に体重が急増するのは健康面からも心配なことですよね。ただ、他人の容姿に言及しないというマナーが浸透してきましたし、誰に言われるでもなく節度ある生活をして、自分できれいな自分を保つことが大事なのかもしれませんね。

シンシアさん:うーん、私は「きれい」という言葉を安易に使いたくないですね。なんだか、芸能人か何かみたいに容姿に優れている人のことみたいに聞こえませんか? 目指すのはそういうことじゃないから。
真理子さん:「きれい」とか「美しい」ってすごくキラキラした感じがしますよね。それよりも、清潔感のある様子、自己管理ができている様子が大事だと思います。ファッションもそう。ちゃんと体に合ったサイズ感のものを選んで、しっかりアイロンがかかっていて、靴はちゃんと磨いていて。そういうことのほうが、高級ブランドの服を着ていることよりも大事。
要はメンテナンス、自分を大事にすること、自分を構うこと。自己管理できないということは、自分のことを大事にできていないのと同じです。そういう人は、他人のことも大事にできないのではないかと思ってしまいます。
シンシアさん:そういう印象を周りに与えてしまいますよね。私はうちの娘に、「髪の毛をちゃんとしなさい」と口をすっぱくして言っていました。娘はいまだに「ママに『勉強しなさい』と言われた覚えはないけど、『髪の毛ちゃんとして』はめちゃくちゃ言われたよね」って言います(笑い)。私は娘に、髪の毛なんかのことで損してほしくなかったから。
――セルフケア、自己管理によって、感じのいい見た目でいることは、もっと意識していいんじゃないかということですね。
シンシアさん:それと、筋肉もつけられるうちにつけておいたほうがいいですね。人生で後悔は一つもないけど、もしもやり直せるなら若いうちに肩や首回り、体幹を鍛えて筋肉をつけておきたかったです(笑い)。私はパソコン仕事で利き手を特に酷使しているから、右肩が上がらないし、首も痛くて。まさか60代もこうやって仕事しているとは思ってもみなかったですから。

真理子さん:私も一時期、整体に毎週通っていました。やっぱり首と背中が痛くて。「首、ずれてますよ」って言われてぞっとしました。これもまた自分を構うっていう話と通じるんですよね。どこかに不調があっても痛くても、なんとなく面倒だったり、時間を取るのが大変だったりして、病院を受診しなかったりする人がいる。それは自分を大事にしていないということだと思います。
シンシアさん:本当にそう。今の中高年の方々は、先が読めない社会だからといって資格をたくさん取るよりも、体を鍛えたほうがいいと思います。それこそ社会が変わって定年も延びてきたし、誰が何歳まで働くことになるのか、自分が何歳まで働きたいと思うか、分からないじゃないですか。年を取っても働きたいとか何かしたいと思ったときに、それができる体でいなくちゃいけませんよね。
◆LOF Hotel Management 日本法人社長・薄井シンシアさん&井上真理子さん

薄井シンシアさん/1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う大学のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラ社に入社し、オリンピックホスピタリティー担当就任するも五輪延期により失職。2021年5月から現職。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
井上真理子さん/大学卒業後看護師としてキャリアをスタートさせ、看護師経験10年を経て美容業界に転身。美容専門学校教員、ヘアメイク講師、フリーランスヘアメイク、エステサロン受付、注文住宅営業、製薬会社プロジェクト立ち上げ等経験。現在はフリーランスとして経営者の業務サポートや、マネジメント、企画・運営などを担当。
撮影/黒石あみ 構成/赤坂麻実、編集部
●薄井シンシアさん、心の不調を抱える人に「陰ながら応援」ではなく「具体的な支援」と考えるワケ