ライター歴40年を超えるベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る「介護のリアル」。昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取ったオバ記者。介護のときに初めて知った母親の思いについて綴ります。
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生前の人格は一段も二段も昇格?
よくある話だけど、家族が亡くなってしばらくすると、誰かれとなく“神格化”が始まるのはどうしたことかしら。「結局、お父さんは家族のためだけに生きた人だよね」と言ったのは叔母で、思わず「えっ?」って顔見ちゃったもんね。
叔父が亡くなったのは70歳の時だけど、生前、叔母は「土日になると家族をほっぽり出して競馬場通いばっかり。あんな身勝手な人はいないわよ。子供がいなかったらとっくに離婚しているわ」と何回聞いたかわからない。同じ口がここまで真逆なことが言う?
でも叔母だけじゃない。亡くなった人は仏様だから、生前の人格は一段も二段も昇格するんだね。
で、わが母親はどうかというと、今のところ変化なし(笑い)。てか、”神格化”しようがないのかも。「まったく調子がいいよな」と、茨城の実家で母ちゃんのシモの世話つき介護をしていた4か月の間、私はずっと思っていたし、今でも思っている。
「キカンボ」で弱肉強食だった母ちゃん
茨城の貧農の5人きょうだいの次女として生まれた母ちゃんはひと言でいえば、「キカンボ」だ。気丈で攻撃型の人間を茨城弁ではこう言うんだけど、それだけじゃない。弱肉強食という、弱いものは自分や家族を守るために見捨てるという野生の顔を覗かせることがあって、それが子供心に恐ろしかったの。
野生といえば、あれは私が中学2年の春だったと思う。外から帰ってきた母ちゃんが「ヒロコ、お風呂からカミソリ持ってこぉ!」と叫ぶから持っていくと、鳥小屋に青大将が長々と伸びていて、そのお腹はいくつかふぞろいに膨らんでいるんだわ。
鳥好きの弟が十姉妹(じゅうしまつ)を飼育していて7、8羽いたはずなのに1羽だけになっている、ってことは青大将が飲み込んだんだ、と思う間もなく、母ちゃんは蛇の首をグッとおさえて一気にカミソリを引いたのよ。
そして「ああ、ダメか。助からねえな」と言うと、蛇と鳥を一緒に手でくるくると丸めたの。
その後、どうなったか私は見ていないけど、こういう時の母ちゃんのためらいのなさといったらない。間違ってもお墓を作るなんてしないから、裏の川に投げ捨てたんじゃないかしら。