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シニア犬に元気に過ごしてもらうために 「成犬とはまるで違う」お世話のポイントを獣医師が解説

老犬
シニア犬に元気に過ごしてもらうためにできるお世話のポイントとは?(Ph/イメージマート)
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近年、人と同じように、犬も寿命が延びる傾向にあります。愛犬が長生きしてくれるのはうれしいこと。ただし、犬の長寿命化は、犬が老境に入ってからの生活が長くなることも意味します。シニア犬のお世話は成犬のときとは異なるポイントが多いです。どんなことに気を付けるべきでしょうか。獣医師の山本昌彦さんにうかがいました。

愛犬との歳月、後半はシニア期に

一般社団法人ペットフード協会の2021年調査によれば、犬の平均寿命は14.65歳でした。同協会の2010年調査では13.87歳だったので、長寿命化の傾向がみてとれます。この傾向は、ペット業界各社の他の調査でも同様です。主に、室内飼いが増えて飼い主さんの目が行き届きやすくなったこと、飼い方に関する正しい知識が広まったことなどが要因だと思われます。

一方で、犬は7、8歳から中高齢期に入り、筋肉量が落ちたり、嗅覚や聴覚、視覚が衰えたりします。個体差はありますが、犬を子犬から飼って大過なく暮らした場合、後半はシニア期の愛犬と長く付き合っていくことになります。いつまでも愛らしいワンちゃんでも、体は老いていくので、しっかりお世話をして、快適な生活を送らせてあげたいですね。

病気やケガのリスクが増大、早く気づくことが大切

山本さんによれば「高齢の犬は、免疫力や体の組織の衰えによって、あらゆる病気のリスクが高まります。また、病気やケガからの回復に時間がかかるようになります」(山本さん・以下同)とのこと。

ペット保険のアニコムホールディングスによれば、10歳の犬の年間医療費は平均10万9922円で、5歳の犬の4万4554円に比べて高額になる傾向です。やはり、動物病院を受診する機会が増えていることが分かります。※年間医療費参照:book_201912_2.pdf (anicom-page.com)

医者にかかる犬
シニア犬は動物病院を受診する機会が増える傾向に(Ph/イメージマート)
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白内障や筋肉、関節の衰えも

日常生活においても視力が落ちたり白内障になったりして柱や家具にぶつかりやすくなったり、耳が聞こえにくくなって飼い主さんからの呼びかけに反応しないことが増えたりします。筋肉量の低下や関節の衰えにより、歩き方がトボトボとした感じになったり、トイレがうまくできなくなったりすることも。

食欲や運動量も低下しがちで、日中も寝ている時間が増えたり、逆に夜は眠らずに鳴いたりします。見た目も、皮膚がかさついたり、皮膚の色が黒ずんだり、毛が抜けやすくなったり、毛の色があせたりと、変化が表れます。

「老いは病気ではないので、予防できるものではありません。年を取ると、どんな犬も若いときのままではいられません。変化は必ず起きるものだと思って、その変化に早めに気づいて、適切なケアをすることが大事です」

シニア犬が過ごしやすい環境づくりを

ペットフード協会の2021年調査によれば、犬の室内飼育率は約87%でした。シニア犬を室内飼いする場合、家の中を犬にとって危険の少ない、使いやすい環境にすることも、犬のQOLを高めることにつながります。

「例えば、床が滑りやすいと関節などに負荷がかかるので、フローリングの床にペット対応の滑り止めコーティング剤を塗ったり、マットを敷いたりするのはおすすめです。足腰が弱ってきているようなら、ソファーの前や屋内の段差に、スロープやステップを置いてあげるといいと思います。

喉が渇いたとき、排泄したいときにすぐアクセスできるように、ベッドやトイレ、水飲み場など犬の生活に必要な機能を狭い範囲に集める考え方もあります」

家具の角や脚に緩衝材、フェンスの設置なども

また、犬の老いは目(視力の低下)に現れることが多いので、家具の角や脚に緩衝材を取り付けたり、家具の配置をなるべく変えないようにしたりして、ケガのリスクを減らしましょう。フェンスなどを置いて、犬の行動範囲を、飼い主さんが見てあげられる領域に狭めることも選択肢の一つです。

食事は姿勢にも配慮を、散歩は継続

飼い方も変える必要があります。食事は、消化によく、低脂質、低カロリーなシニア用のフードを与えましょう。成犬用のフードを与え続けると、代謝が落ちている分、肥満になったり、内臓に負担がかかったりすることも。最近では、犬の長寿命化に伴って、シニア期を前期と後期に分け、フードを開発しているメーカーもあるのだとか。

ヘルシーで食いつきのいいものを探したいものです。ドライフードをそのままだと固くて噛めないこともあるので、水やぬるま湯でふやかしたりするのもおすすめです。

ご飯を食べる犬
食事の際にも配慮を(Ph/イメージマート)
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「食べるときの姿勢を保つのがつらい子もいるので、そういう子には、フードボウルを台に乗せてあげるとか、飼い主さんが手でボウルを持って、ちょうどいい高さにしてあげるとか、工夫が必要になってきます。手持ち用のボウルや、片側が浅く切ってあるボウルもあるので、楽なやり方を試してみてください」

筋力維持、認知症の予防のためにも散歩は大切

散歩は、若い頃のように大喜びしなくなったり、散歩に連れ出しても歩くのをやめたりすることがあります。体力的に長い距離を歩くのがつらくなったり、視力の衰えなどで不安を感じやすくなって家からあまり離れたくない気持ちが働いたりするようです。

「そういうときでも、散歩は続けてください。ゆっくり歩く、少し立ち止まって休憩する、行きはキャリーや抱っこで運んであげて帰りだけ自分で歩かせるなど、工夫しながら散歩自体は継続するべきです。喜ばないからもう行かないという選択はしないほうがいいですね。筋力を維持するためにも、認知症の予防のためにも、散歩は大切です」

トイレの失敗を叱らないで

日中も寝ている時間が増えていき、逆に夜はよく眠れないで鳴き出す犬もいます。

「昼夜の感覚を取り戻せるように、昼間は太陽の光を浴びさせ、あまり寝すぎるようなら起こしても構いません。昼間のうちに少し疲れるぐらい散歩したり遊んだりしておくと、夜、眠りやすくなるはずです。寝る前に体を撫でたりブラッシングしたりして、安心させてあげるのもいいと思います」

トイレは、失敗してもシニア犬の場合は叱ったりする必要はありません。トイレがしたそうな様子が見えたら連れて行ってあげたり、介助したりして対応しましょう。トイレの設置数を増やしたり、おむつを使ったりする方法もあります。

「トイレの失敗も食欲不振も散歩嫌いも、病気やケガを疑って確認することも大切です。トイレの失敗は頻尿になっているからではないかとか、食欲がないのは内臓疾患かもしれないとか、散歩中に歩かなくなるのは足が痛いからかもとか。何か変化があれば、体を触ったり見たりして確かめ、気になる場合は動物病院へ連れて行ってあげてください」

◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師・山本昌彦さん
獣医師・山本昌彦さん
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獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/

取材・文/赤坂麻実

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