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「卵巣がんの疑い」で入院した65歳オバ記者、「個室に移りたい」と訴えた時に看護師がピシャリと言った言葉

オバ記者
術後2日目の夜、「個室に移りたい」と訴えた出来事とは…
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「卵巣がんの疑い」で10月初めに手術を受けた、ライター歴40年を超えるベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)。手術後の検査の結果、卵巣がんではなく「境界悪性腫瘍」という診断だった。そんなオバ記者が12日間の入院中、一度だけ「個室に移りたい」と看護師に訴えた出来事があったという――。

* * *

1日2万円は高い…5500円の部屋に

がん。ふたりにひとりが罹ると言われている。この夏、異様に膨らんだお腹と下腹部の痛みが日に日に強くなる気がして、いやいや区の婦人科検診へ行ったら、もっとも恐れていた「卵巣がんの疑い」と告知された私。

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検査を受けに行く当時のオバ記者
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「ええ~っ、いつの間に!?」と言う間もなく、検査から検査の大学病院の精密検査ロード。そしてたどり着いたのが女性外科の入院病棟というわけ。

いやいや、何でもそうだけどやってみないとわかんないね。以前、医療保険の話をしていたときに友達が、「いまどき、かなり大きな手術をしない限り、入院したところで3、4日。差額ベッド代の保障なんていらないって」と言っていたのよ。それで最低の保障にしたのに私の初めての入院が12日間。これって話、違くね?

病室はカーテンだけで仕切られている部屋は差額ベッド代がかからない。けど、家具でそこそこのプライバシーが保てる部屋は1日5500円。じゃ、もうワンランク上の個室だといくらか調べたら、な、なんと1泊2万円超えだって。真ん中とって1万円ちょっとくらいの部屋ってないものなの?

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4人部屋の自室。愛猫・三四郎Tシャツをお守り代わりに
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こうなったら相部屋か個室か迷いようもなく、1日5500円のほうを選んだわよ。カーテンだけの仕切りだと、いびきをかくらしい私は不安だし、初めての入院でお作法もよくわからない。後になって「それ、正解!!」と何人かの入院経験者が言ってくれたけれど、私自身、その選択が間違いだったと一度だけ強烈に思ったことがあるの。

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病室内から。遠くに見えるのはスカイツリー
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手術後の夜、何度もトイレに起きる日々

手術後、2日目の夜、左腕は点滴が刺され、右の下腹部には血抜きのチューブつきの袋をぶら下げながら、トイレに立ったのよ。トイレは私のスペースと壁ひとつで仕切られていて、カーテンをシャッと引いたらそこにトイレの取っ手がある。要するに最もトイレに行きやすいの。

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トイレに行く度に同室の人に迷惑をかけてないか心配に
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とはいえ、全身麻酔で手術してまだどこか意識がぼんやりしている身。看護師さんから「トイレに行く時は付き添いますから必ずナースコールを押してくださいね」と念押しをされていた。それで2回、3回、4回。1時間もたたないうちにナースコールを押して、看護師さんを呼ぶと、足音もなくカーテンを開けて、「さ、行きましょう」と小声で促してくれるんだけどね。5回、6回、7回。まだ夜が明けない。「点滴でトイレに行きやすくなっているんです」と看護師さんは言うけれど、もうガマンできないッ。

何がって、看護師さんの付き添いもそうだけど、トイレの扉を開けるときにカタンと音をさせてしまうことがある。鍵を閉めるカチッとした音も気にかかる。同室の人を起こしてしまったのではないか。いったん目が覚めたら眠れない人だっているに違いない。

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6時間もの手術を終えたオバ記者
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「みんなそれを覚悟して入院してるんです」

ふだんひとり暮らしの私はこの気遣いが耐えがたかったんだわ。とうとう8回目のトイレのとき、「今夜だけでも個室に移動させてください。こんなに何度もトイレに立ったらみんなを起こしてしまうもの」と訴えたのよ。そうしたら「あ、その気遣いはいりません。4人部屋ということは、みんなそれを覚悟して入院しているんです」とバチッと言われたの。

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手術前。自撮りをするオバ記者
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その言葉の力強かったことといったらない。「ああ、なるほどね」とストンと納得したからか、それを最後に深い眠りの中に落ちていったわよ。

歯磨きや体拭きの経験は強烈だった

「野原さん、歯磨きしましょう、口を開けてください」と言われたのは手術の翌日だ。たぶん人から歯を磨かれたのはこの時が初めてだ。それにしても寝ながら歯磨きをするのはなんとも無精ったらしいけど、もっと強烈なこともされたっけ。

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術後、ガスが出るまでご飯はおあずけだった
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これは手術した当日だったか、ホットタオルで体を拭かれたの。どこもここもあそこも、すみずみまで看護師さんは手を休めず手際よく拭いていったけれど、それをさせていた私の意識は半分以下だったんだね。後にも先も自分の身を全部まかせたのはその時だけで、2回目は「自分でしますっ」とかなりきつい調子で断ったもの。

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今回の入院で大活躍した折り畳み桶(写真中央)。足湯が作れて気持ちよかった
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思うに病人になるってことは、自分と体が離ればなれになって、体のほうを医療の手にゆだねるってことなんだよね。そのおかげで体が私に戻ってきた。

「ありがとう。お世話になりました」

自宅で夜中、トイレに起きたときなどに大学病院でお世話になった看護師さんの顔をひとりひとり思い浮かべたりしている。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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