「卵巣がんの疑い」で10月初めに手術を受けた、ライター歴40年を超えるベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)。手術後の検査の結果、卵巣がんではなく「境界悪性腫瘍」という診断だった。そんなオバ記者が、がんになった友人たちとの交流を綴る。
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手術後ハッパをかけてくれた看護師
かつてホテルで一緒に汗を流した仲間は気がつくとみんな、がん、またはがんの疑いで手術していた――。
「すみませんけどちょっと片付けてもらえますか?」
卵巣がんの疑いで大学病院に入院中、若い看護師さんからバシッっと注意された。ほかの看護師さんが彼女を「スパルタ系」と言っていたけど、別の言い方をすると「ハッパかけ系」よね。
いまは手術した翌日から内臓の癒着を防ぐために、少しでも歩かせるのが標準らしいんだけど、ハッパ看護師の意気込みたるや、初日は「病棟の廊下2周!」。
うふふ。スポ根全盛期に育った私は、こう言われると火がつくんだよね。前日、全身麻酔で6時間におよぶ卵巣全摘手術で意識もうろうのハズなのに、お腹の傷をかばいながら点滴を杖代わりに歩きましたとも。
そうしたら、「じゃ、明日は5周ね」で、それをクリアしたら「今日は10周で、明日は20周」って、どんどんハードルを上げてきたの。そしたら私もムキになって点滴台をこれでもかというほどガラガラと音を立てて病棟の廊下を歩く歩く!
と、こういうことは得意科目だけど、今も昔も片付けが大の苦手。てか、カーテンで仕切られた病室を片付けようなんて発想すら浮かばない。そしたら、まぁ、きっと目に余ったんじゃない? 怒られちゃった。それからちょっと気をつけるようになったけど、退院した日に撮った写真を見てみると、本やら飲みかけのペットボトル、マスクやらが散乱してる。そりゃあ、布団ぐらいスッキリさせてからカメラを向けろよって話よね。
ホテル清掃員時代の仲間たちとの交流
それだけ片付け、掃除が苦手な私が、ビジネスホテルの客室清掃のパートをしたんだから、運命って皮肉。17年も前のことだけど、当時、ギャンブルにのめり込み過ぎて、経済的にも精神的にもかなりヤバい状態で、おまけに部屋の中はぐっちゃぐちゃ。
なんとかしなくちゃ! で、48歳の私はアルバイトを探したんだけど、世間の人はちゃんと見ているね。人の紹介で警備員をしようとしたら長々と面接をしたあげく、「ちょっと無理だって」と、紹介者を通して断られたの。その時の彼の哀れむような目から、面接者がどんな言葉で私の不採用を告げたか、聞くまでもないって。
まぁ、だけど捨てる神があれば拾う神ありでね。次に目星をつけたホテルの客室清掃員のほうは採用されて、なんとシカちゃんとハマちゃんというパート仲間までできちゃった。で、今でも数年に一度、こうして会ってランチするわけ。