太陽の下の浅香唯もいいけれど…
さて、浅香唯さんといえば、やはり忘れてはいけないのが三代目スケバン刑事である。私は和田慎二さんの原作コミックスの大ファンなので、ドラマの設定が、原作からガンガンかけ離れていくこのドラマを、戸惑いながら観た。
斉藤由貴さん主演の第1作『スケバン刑事』はまだ原作のストーリーを踏襲していたが、南野陽子さん主演の2作目には「鉄仮面伝説」という謎の設定がついてきた。しかし、それでも刑事という設定はなんとか死守していた。
そして浅香唯さん主演の3作目。今度は忍者という設定で、「少女忍法帖伝奇」という山田風太郎フレイバーのタイトルがついてきた。原作との共通点はヨーヨーくらいだろうか。びっくりした。タイムマシンがあれば乗り、なぜこうなったのか、当時の企画会議を見てみたい。きっと深夜に会議をしたと思われる。
しかし、そんなあり得ない設定も、浅香唯さんが力づく、いや、魅力づくでアリにした。彼女の末っ子パワーというか小動物感は、見るものを親衛隊にさせる。どんな素っ頓狂なものでも「わかった。応援する。見守る!」という気になるのだ。
おかげで、原作から遠く離れた『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』を私は楽しんで見ることができた。
浅香唯さんが歌う主題歌と挿入歌も、とても良かったのだ。特に『STAR』、『瞳にSTORM』は、とてもキャッチ—で、どこかせつなくて、胸がキュンキュンする。ドラマの設定「風間三姉妹」名義でリリースされた『Remember』は、作曲を担当した来生たかおさん特有の、夕陽を思わせる哀愁が素晴らしい名曲である。ちなみに、浅香唯さんは、風間三姉妹として共演した大西結花さん、中村由真さんと今も仲がいいそうだ。なんともほっこりする。
最強の末っ子の歌声は時を超え、今でも、大人になりすぎた心を励ますでもなく、説教するでもなく「そうだよね。大丈夫。私が味方になれればいいな」とそっと頷いてくれる。
太陽の下の浅香唯もいいけれど、秋の夜こそ、聴きどきだ。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka