食後に血糖値の急上昇や急降下が起こると、強い眠気が出ることがあります。なかでも、耐えられないほどの強い眠気が出ている場合は、体に大きな負担がかかっているサインのため、注意が必要だと教えてくれたのは、薬剤師の山形ゆかりさん。そこで、食後の眠気が起きる原因や予防方法、漢方薬について山形さんに教えてもらいました。
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食後に眠気が起きる原因は血糖値の急降下
食後に眠気が起きる原因の1つに、血糖値スパイクがあげられます。
通常、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)は食前や食後など常に変動しており、血糖値が上昇すると正常値に戻すために分泌されるのがインスリンです。インスリンの働きでブドウ糖が肝臓や筋肉などに取り込まれ、血糖値が正常値へと下がります。
しかし、何らかの理由によりインスリンの分泌量が減ったりタイミングが遅れたりすると食後の血糖値が急上昇し、血糖値を正常値に戻すために短時間でインスリンが大量に分泌されます。大量のインスリンによって血糖値が急降下すると、体は低血糖状態になり、眠気が起こるのです。この食後の短時間に起こる血糖値の急変が血糖値スパイクと呼ばれるものです。
血糖値スパイクは、内臓や血管に負担をかけることが知られています。血糖値スパイクを繰り返した血管は、動脈硬化が起こりやすく、糖尿病や肥満、心筋梗塞、脳卒中、認知症、がんなどの発症リスクの上昇につながります。
食後に強い眠気が起こる人は、健康診断で異常がなくても血糖値スパイクに注意したほうがよいでしょう。
食後の眠気を抑えるための食べ方の工夫
血糖値スパイクを防ぎ、食後の眠気を抑えるには、血糖値を急激に上げないことが重要です。そこで、血糖値の急上昇を予防する食べ方の工夫を2つ紹介します。
野菜から食べ始めて糖質の吸収をゆるやかにする
食事の最初に糖質が多く含まれる炭水化物を摂取すると、糖質がすぐに消化・吸収されるため、血糖値が急上昇します。
そのため、ほとんど消化・吸収されない食物繊維が豊富な野菜から食べることが推奨されます。食物繊維には、糖質の吸収をゆるやかにする効果が期待できます。
また、炭水化物の前にたんぱく質を摂取すると、インスリンの分泌を促す働きをもつホルモンのインクレチン(GLP-1/GIP)の分泌が促進されます。これには胃の運動を抑制する働きがあり、インクレチンの分泌が促され、胃から小腸への食べ物の排出がゆっくりになることで、血糖値の急上昇を抑えられるとの報告があります。(矢部 大介・桑田 仁司・清野 裕「食後血糖と栄養素摂取の順番」https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/59/1/59_30/_pdf/-char/ja)
そのため、最初に食物繊維が豊富な野菜、次に肉や魚などのたんぱく質、最後に米やパンなどの炭水化物の順番で食べることで、糖質の消化・吸収がゆるやかになり、血糖値の急激な上昇を防ぐことができます。
よく噛んで食べて消化スピードを落とす
よく噛んで食べることが消化のスピードを遅くすることにつながるので、血糖値が急上昇しづらくなります。また、まだはっきりと解明されていませんが、「噛む」こと自体がインスリンやGLP-1の初期分泌の促進につながる可能性があるという研究結果もあります(北海道大学「咀嚼による血糖値の調節効果は朝と夜で異なることを発見」https://www.hokudai.ac.jp/news/191125_pr.pdf)。噛むことで血糖値が上がる前からインスリンの分泌が促され、食後の血糖値の急上昇を抑え、糖代謝機能の改善が期待できるのです。
1口30回噛むのが理想といわれていますが、食事中に噛む回数を意識するのはなかなか難しいので、「1口食べたら、口の中から食べ物の形がなくなるまで噛む」「口の中の食べ物がなくなってから、次に箸を伸ばす」ことを意識するといいでしょう。
食後の眠気予防には運動も効果的
血糖値スパイクによる眠気の予防には、食後の軽い運動も効果的です。
食事をしてから1時間以内にウォーキングや階段昇降などの軽い有酸素運動を15分間ほどすると、血液中のブドウ糖が筋肉で消費され、血糖値の急上昇・急降下が起こりにくくなります。
さらに、有酸素運動の前にスクワットや腕立て伏せなどの簡単な筋トレを1〜2分すると、より効果が高まると言われています。
食事の工夫に加え、運動も取り入れることで、血糖値の急激な変動を防ぐことができ、食後の眠気の悩みの解消が期待できます。