6月24日は「五月雨忌」
『アキナ』は、もちろん中森明菜さんをモデルにしたのだろうが、個人的なメッセージだけではなく、「現代の元気のない女性たちへの応援歌」として作った部分もあったようだ。確かに「アキナ」という名前は歌詞に最後の一回だけしか出てこない(だからこそ印象的なのだが)。ここを「稲」に変えれば、私のための応援歌に早変わりである。一度やってみたが、泣けるほど励まされた。
そしてこのCD、B面も『タカハシ』と固有名詞だ。歌詞にはサッカー部の高橋君が登場する。彼がアキナと同じく、実在する人かモデルなのかはわからない。でも、「僕は大丈夫」「僕は負けられない」と歯を食いしばる高橋君と、その姿に勇気をもらう「村下君」の姿はありありと想像できる。
元気で明るく勇気のある人はもちろん魅力的だけれど、グッと我慢して努力し、傷つく人の純粋さもまた、雨のように誰かの心を潤し、景色の美しさに気づかせてくれる。彼の歌は、大切な人、大切な風景をフィルターにして、そんな、すべての頑張る人たちに向かっているように感じてならない。
中森明菜さんが『踊り子』のカバーを発表したのは2003年。村下孝蔵さんは、1999年、46歳という若さで亡くなってしまったので、ご本人は聴けていない。
生きていたら、と思わずにはいられない。また、今年から本格的に活動再開をした中森明菜さんのニュースを見て、ふたりの共演を観たかった、と心から思う。
命日である6月24日は、『初恋』の歌詞と、梅雨の季節とを重ねて、「五月雨忌」と呼ばれているのだそうだ。
亡くなって25年経つとは思えないほど、彼の歌はいまだに、瑞々しい。
五月雨は緑色。夕映えはあんず色。
季節ごとに色を変える花や葉や空が、その声と、美しい言葉を思い出させてくれる。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。新刊『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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