しかし長い年月を経て改めて聴くと、彼女の歌声と、バックコーラスのスタイリッシュな英語が交わり、ものすごい爽快感と透明感に溢れているのだ。私は心で菊池桃子さんに土下座した。
そして実際、ラ・ムーは「最高にクール」との再評価が定着し、現在も『愛は心の仕事です』ほか、『少年は天使を殺す』『Rainy Night Lady』など、YOUTUBEやサブスクで多くの人に聴かれ、ラ・ムー唯一のアルバム『Thanks Giving』や菊池桃子の3rdアルバム『ADVENTURE』などがアナログレコードで再発売。国内外で絶賛されている。
実はラ・ムー結成時、菊池桃子さんは、あの囁くような歌い方以外に、強く声を出す歌い方も試したそうだ。しかしスタッフが「それでは個性がなくなる」と止めたらしい。
スタッフ、さすがプロである。「桃子の声はそのままで評価される」——。この強い確信が30年後の再ブームにつながった。
彼女の声は涼しいが、スタッフとの信頼関係は熱い!
表現が限りなくシティな『渋谷で5時』
今の私のお気に入りは、菊池桃子の2ndシングル『SUMMER EYES』と9thシングル『Say Yes!』。そしてラ・ムーの『夏と秋のGood-Luck』。どれも夏という季節は暑苦しいだけでなく美しいのだ、ということを思い出せてくれる。
そして鈴木雅之さんとのデュエット『渋谷で5時』。彼女の甘い声は、デュエットでも素晴らしく映える。
ただし聴くと歌うは別の話である。超おシャンティな歌であるため、カラオケだと一気に難易度が上がるのだ。サボることを「サボタージュ」。手をつなぎ、引っ張り誘導することを「手をナビゲート」。表現が限りなくシティだ。これを桃子チックにかわいく歌わねばならない。富士山レベルのハードルである。
一度だけカラオケ接待で歌ったが、あまりにも歌の世界観と自分がかけ離れ、いたたまれなくなった。「これなら『昭和枯れすすき』のほうがよかった(泣)」と声が自然と小さくなったのを覚えている。
ラ・ムーへの謝罪に続いて、カラオケの失敗話というよくわからない流れになってしまった。仕切り直そう。
彼女は今年デビュー40周年で、4月に記念EPをリリース。その名も『Eternal Harmony』。収録曲3曲、どれも素晴らしいが、特に『Starry Sky』が、透明感が神がかっているのでオススメだ!
ドラマでは年相応の役がちゃんとしっくりしているのに、歌手としてはアイドルオーラが今なおキラッキラ。菊池桃子さんは、様々な可能性を秘めた、まさにEternal(エターナル)、永遠に旬の桃。これからもずっとその歌声は、甘く心を癒してくれる。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。新刊『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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