「9月の恋を思い出す歌」は竹内まりやも
お次は竹内まりやさんの『SEPTEMBER』。こちらもまた、9月の恋を思い出している歌である。いやもう、9月の恋の思い出率の高さよ……。セプテンバーのバーは、リメンバーのバーと言っていいだろう。
この曲はメロディーがハッピーなので、「9月、なにか始まりそうな気がするなあ」とついついウキウキで聴いてしまうが、歌詞を追うと、主人公は、コテンパンにフラれている。彼の変化に気づき始めたのが9月、というわけだ。つらい。
「飽きた」という言葉も、「秋」の残酷なダジャレに感じるほど。8月のデートで着ていたトリコロールのシャツを、彼女はもう着ない。枯葉とともに、涙がぽろぽろ落ちる。
9月は、日本の歌謡曲、ポップスにおいては、熱く浮かれきった恋心に冷や水をぶっかけられるような、ハードな展開が待ち受けていることが多い。クレイジーケンバンドの『せぷてんばぁ』(2001年)は、主人公は恋に傷つき、会社を休むくらい落ち込んでいる。タイトルの平仮名が出す、間伸び感がよりやるせない。
つくづく、日本の歌において「春夏秋冬」は単なる四季ではなく、恋愛のプロセスそのものだと思う。恋心のテンションは季節の風景変化、気温の上下とリンクする。
春のぼやぼやっとした情緒不安定さは恋のはじまり、恋心の芽生えを思わせ、夏のアチチな気温と薄着は、あけすけな情熱爆発、誘惑、ラブラブを感じさせる。
そして少し涼しい秋風は心のすきま風、落ちる枯葉は涙や恋心の枯れを思わせる。この時期、どう対処するかで冬が決まる、まさにターニングポイント! 上手く乗り越えればハッピーホワイトクリスマスだが、引きずると、コートの襟を両頬のあたりまで立て、孤独を紛らわせる旅に出ることになるのだ。
ああ、秋風よ、お手柔らかに……!