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竹内まりや、一風堂、RADWIMPSほか…洋楽からJ-POPまで名曲揃いの「セプテンバー」ソング 夏から秋に変わる9月だけの「特別なやさしさ」

一風堂・土屋昌巳のボーカルは浮遊感の極み
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春に咲く「すみれ」がなぜ秋の歌に?

いやいや待て待て。心浮き立つ9月もあるぞ。『すみれSeptember LOVE』。1982年の一風堂バージョン、1997年のSHAZNAカバーバージョン、どちらもセンセーショナルだったので、覚えている人も多いだろう。聴いているだけで美人になった気分になれる、上質の美容液みたいな曲だ。

一風堂は、土屋昌巳さんのボーカルが浮遊感の極みで、こんなに恋の情緒不安定感を現した声はあろうかと、聴くたびザワザワする。「♪あれ〜ぅは〜9月だぅあった〜」と、小さい「ぅ」が幻聴で聴こえ、その「ぅ」に他の言葉がバウンドし、ふわふわふわ〜んと音符に乗るイメージなのだ。

ストーリーは、超絶美女にもて遊ばれている9月の恋。いや、恋として成立しているのか分からない。誘惑される危うさと楽しさ、妖しさがガンガン出ている。

しかし、ここで気になるのが「すみれ」だ。すみれは言わずもがな春の花。なぜ秋の歌に登場するのか——。理由はカネボウ化粧品の秋の新色のすみれ色(青みがかった紫)だったから、らしい。

『すみれSeptember LOVE』は、1982年、カネボウ化粧品「秋のバザールレディ80・パウダーアイシャドウ」のCMソング。「新色のすみれ色」「ブルック(CMのイメージキャラクターを務めた、ブルック・シールズ)の秋のすみれ色コレクション」のコピーに合わせて作られた楽曲だったというわけである。

この楽曲がリリースされた80年代は広告の時代ともいわれ、化粧品CMから多くのヒットが飛び出した。とはいえ、商品のイメージやキャッチコピー先行で、歌詞を考えるのは至難の業だったろう。『すみれSeptember LOVE』、作詞の竜真知子さん、作曲の土屋昌巳さんは、よくぞこんな美しい世界観をひねり出したなあと感動する。ユラユラゆれる、君と僕だけの幻の世界!

いろんなセプテンバーを見てきたが、最後は、2006年、RADWIMPSによる9月の具現化『セプテンバーさん』に挨拶をして終わりたいと思う(メジャー1枚目、通算3枚目のアルバム『RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜』に収録)。

去り行く夏のキラキラに後ろ髪を引かれる。冬の訪れに少し不安も漂う。余韻と予感にはさまれているけれど、だからこそ、他のどんな季節でもない、特別なやさしさがある。
そんな9月の素晴らしさを、親しみをもって感じられる1曲だ。

あと残り半分だけど、一緒に楽しめるといいね、セプテンバーさん

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。新刊『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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