
体のさまざまな機能を調整し、健康を維持するために欠かせないホルモン。「とくに女性はホルモンの影響を受けやすく、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンのバランスが乱れると、健康やメンタルに不調があらわれることがあります」と医師の木村眞樹子さんは語る。とくに季節の変わり目には要注意だという、ホルモンバランスが乱れる原因や改善のための習慣や食材、漢方薬について教えてもらった。
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ホルモンバランスが乱れる原因
体内でつくられるホルモンにはさまざまな種類がありますが、生理や妊娠、出産、更年期などの女性の健康に大きく関係しているのが女性ホルモンです。女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンの2つがあり、月経周期に応じて卵巣から分泌されます。

これらのホルモンの分泌を調節しているのは、脳にある視床下部です。視床下部は自律神経のコントロールも行っており、過度なストレスや睡眠不足、気温差などによって自律神経が乱れると、ホルモンの分泌をコントロールする機能も正常に保てなくなります。
また、視床下部はストレスに適応する役割も担っているため、ストレスにさらされ続けると視床下部の働きが乱れ、ホルモン分泌の調整機能の乱れにつながります。
さらに、更年期に入ると加齢によって卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量が減少することも、ホルモンバランスが乱れる要因です。指令通りにエストロゲンが分泌されなくなることで、視床下部が暴走し、その影響を受けてホットフラッシュや動悸などの更年期症状があらわれます。
つまり、自律神経の乱れやストレス、加齢が女性ホルモンのバランスが乱れる主な原因です。
ホルモンバランスの乱れによる影響
ホルモンバランスが乱れると、生理周期の乱れや不正出血などが起こりやすくなるほか、自律神経にも影響して動悸やほてり、便秘、イライラするなど、さまざまな心身の不調につながります。先述したとおり、更年期にあらわれる諸症状もホルモンバランスの乱れの影響を受けて引き起こされるものです。

また、エストロゲンは肌や血管、骨などを健康に保つ役割があります。エストロゲンの分泌量が減少することで肌荒れや大人ニキビが起きやすくなったり、動脈硬化や骨粗しょう症などのリスクが高くなったりします。
ホルモンバランスが乱れやすい時期
夏から秋にかけてなど寒暖差が激しい季節の変わり目には自律神経が乱れやすくなるため、ホルモンバランスも乱れやすくなります。

自律神経を構成する交感神経と副交感神経が、バランスを保ちながら体温調節や血圧の維持、内臓の働きなどを調整しています。ところが、気温や気圧が頻繁に変動する季節の変わり目には、変化に適応しようとして自律神経に大きな負荷がかかるのです。すると、視床下部の働きが弱まり、それに伴って女性ホルモンの分泌が不安定になります。
女性ホルモンの分泌周期のセルフチェック方法
毎朝同じ時間に基礎体温(朝起きた直後の安静状態での体温)の記録をつけることで、女性ホルモンの分泌周期を推測できます。
女性ホルモンが正常に分泌されている場合、エストロゲンが優位になる生理開始から排卵日までは低温期、排卵日以降はプロゲステロンが優位になる高温期に入り、グラフにすると二相に分かれます。

更年期になるとホルモン分泌の変動が不規則になり、高温期をつくっていたプロゲステロンが減少していくため、低温期と高温期の区別が難しくなります。やがて閉経を迎えると、高温期がなくなって基礎体温は低温のまま安定するようになるのです。
低温期と高温期は、月経周期にあわせた一定のサイクルで繰り返されています。月経周期内で二相の区別がつけにくいときや、二相になっていても低温期と高温期のサイクルやそれぞれの持続日数にばらつきがある場合は、ホルモンバランスの乱れが起きている可能性があります。
ホルモンバランスを整える方法
ホルモンバランスを整えるには、視床下部の機能を正常に保つように自律神経のバランスが乱れにくい生活をすることや、機能を活性化させるために血流を促すことが大切です。
質のよい睡眠をとる
寝付きが悪い、夜中に何度も目が覚めてしまう、という人は質のよい睡眠をとるためにハーブティーを活用してみましょう。
バレリアンとレモンバームが含まれたハーブティーは、寝付きや睡眠維持の改善に効果的という研究結果があります(上馬塲和夫ほか「ハーブティーのQOL増進効果―睡眠の質に関するパイロットスタディ―」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/4/3/4_3_119/_pdf)。

寝る前に飲む習慣をつけることで、睡眠の質を高めることにつながります。
適度に運動する
運動で全身の血行が促進し、必要な酸素や栄養が全身の内臓に運ばれると、視床下部がある脳や卵巣などの内臓機能が活性化します。これにより、体内のホルモン分泌がスムーズに行われるようになり、ホルモンバランスを整える効果が期待できます。
また、運動はストレスの軽減にも効果的です。運動すると抗ストレス作用を担うエンドルフィンや、精神を安定させる作用のあるセロトニンといった脳内物質が放出され、ストレス解消やリラックス効果が得られます。
特別な道具や広いスペースを必要とせず、短時間でできるストレッチやヨガがおすすめです。仕事の合間には肩や首周りをほぐすストレッチを、お風呂上がりや就寝前などには体全体をほぐすヨガをするなど、習慣として続けやすい取り入れかたを考えてみるとよいでしょう。
栄養バランスの取れた食事を心がける
ホルモンの分泌にはさまざまな栄養素が関係しているため、偏っているとホルモンバランスの乱れにつながります。そのため、5大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく摂ることも大切です。
とくに、たんぱく質は女性ホルモンの材料になる栄養素です。卵や肉、魚、大豆製品など、たんぱく質が豊富な食品を毎食1品加え、不足しないように気をつけましょう。
ホルモンバランスの乱れによる不調改善に役立つ食材
ホルモンバランスの乱れによる不調を改善するには、エストロゲンと似た作用がある大豆イソフラボンを多く含む食品を摂り、エストロゲンの不足を補うのがよいです。

納豆や豆腐、豆乳、みそなど和食には大豆食品が多いので、毎日の食卓を意識してみましょう。
ただし、食品として摂取する大豆イソフラボン量の目安は1日40〜45mg(食品安全委員会「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」https://www.fsc.go.jp/sonota/daizu_isoflavone.html)とされているため、摂りすぎには注意が必要です。納豆なら1日1パック、豆腐なら1日半丁ほどが適量です。
ホルモンバランスの乱れによる不調には漢方薬も役立つ
ホルモンバランスの乱れによる落ち込みやイライラといった精神的な不調には、「血流をよくして自律神経の乱れを整える」「鎮静作用で精神を安定させる」といった作用のある漢方薬を選び、改善を目指します。

おすすめの漢方薬
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
体のエネルギーの巡りをよくして精神を安定させるとともに、不足した血流を補って婦人科系の不調に働きかけます。気分の落ち込みやイライラなどの精神的な症状やホットフラッシュ(のぼせ)に用いられます。
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
体内のエネルギーの流れをよくして体の熱を冷まし、イライラや神経の高ぶりを鎮めます。精神不安、動悸や不眠などの症状に用いられます。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、いい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:医師・木村 眞樹子さん

きむら・まきこ。医師。 都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科に在勤。総合内科専門医・循環器内科専門医・日本睡眠学会専門医。産業医として企業の健康経営にも携わる。 自身の妊娠・出産、産業医の経験を経て、予防医学・未病の重要さと東洋医学に着目し、臨床の場でも西洋薬のメリットを生かしながら漢方の処方を行う。 症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でもサポートを行う。