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「何度も何度もレコードの針を置いて聴いた…」歌謡曲ライターが語り尽くす!さだまさしの歌との思い出“マイさだまさ史”

通算コンサート回数は4600回を超えた(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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『ソフィアの鐘』の美しさに東京への憧れが100倍になった

彼の歌は、なんといっても暗さがいい。アンミカさんが「黒には300通りあるねん」と仰っていたが、まさに、さだまさしさんの歌の暗さの種類もそのくらいあると思う。なのに、お喋りは滅法面白い。1980年中ごろに放送されていた『花王名人劇場』(フジテレビ系)の「さだまさしとゆかいな仲間」も楽しみに観ていたが、「これがあの暗い歌を作る人と同一人物なのか」と首をひねりまくったものである。ご本人も「人生は明るく、歌は暗く」がモットーと話しているが、なんともミラクルなバランス感覚だ。

私の「さだまさ史」に戻ろう。その後、またもや男性の好みが変わり、メガネ男子ブームから卒業するのだが、さださんの曲とは、いい距離感でお付き合いが続いた。

スメタナの「モルダウ」に歌詞をつけた『男は大きな河になれ〜モルダウより〜』(1987年)は、映画『次郎物語』のCMで聴き速攻で心奪われた。歌詞が、ああなれこうしろとけっこう説教くさいのに、逆に心の疲れが取れる不思議。何か、大きな力をもらう気持ちになれるアメージングな1曲である。

そして、超不器用ながらも恋愛や仕事をするようになった20代には、『恋愛症候群−その発病及び傾向と対策に関する一考察−』(1985年)や『雨やどり』(1977年)に自分を重ね笑った。

『ソフィアの鐘』(1994年)は、東京に猛烈に憧れを持っているときに聴いたなあ。描かれる風景にいたたまれないくらいの美しい寂しさを感じ、憧れが100倍になった。また、この曲は最後のほうは「ラーラー……」の繰り返しが続くので「このままフェイドアウトするのかな」と思いきや、終わりの終わりに鐘の音が鳴る。これが猛烈にいい!

曲は最後まで聴かねばならぬと痛感した1曲である。

60歳のバースデーコンサートでは写真の谷村新司さんらゲスト60人と共演した(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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これからも「さだまさ資産」を増やしたい

きっと皆さんにも思い出深いさだまさし楽曲の遍歴、「さだまさ史」があることだろう。彼の曲にランキングをつけるのはとても難しいが、私のベスト3をまとめると、3位『ソフィアの鐘』、2位『檸檬』、1位『苺ノ唄』である。

ちなみに昨年の2023年、さだまさしさんのデビュー50周年を記念して産経新聞社が行った「全574曲の中から心に響き続ける曲」の投票結果(応募総数7164件)では、1位『案山子』(1977年)、2位『主人公』(1978年)、3位『風に立つライオン』(1987年)、4位『秋桜』(1977年)、5位『関白宣言』(1979年)となっている。

「案山子」……(泣)! 親心がそのまま純度100%で歌になったような1曲。47年も前の歌になるが、その問いかけの温かさは今も変わらず心に響く。私はこれを言う側の年になったけれど、それでも、心配症だった父親を思い出し、鼻の頭がツンと来る。

元気でいるか——。美しい日本の風景を背に、語りかけるように歌うさだまさしさん。その存在は、もはや歩く故郷のよう。長い間忘れていても、大切な時にふっと記憶の奥から戻ってくる。泣きたいのに泣けないくらい切羽詰まった時、涙腺をつついてくれるようなやさしさがある。

ちなみに、さきほどキー変換が、ひょっこり「さだまさしさん」を「さだまさ資産」と変換してきた。なるほど、心に豊かに溜まるさだまさしさんの曲は「さだまさ資産」だ。

まだまだ、知らない曲がいっぱいある。これからも、さだまさ資産、増やしたい。

60歳のバースデーコンサートでは小林幸子とも共演(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。近著『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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