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女優・秋吉久美子が明かす、いまだ埋まらない亡き母への想い――「母にとって私は最期まで“期待外れ”だった」≪独占インタビュー『母を語る』前編≫

東京と福島を行き来して

20代の頃、母と二人で台湾旅行へ行ったことも(本人提供)
写真4枚

診断後ほどなく、まさ子さんは、地元・福島の病院に入院し、胆汁を正常に流すための手術を行った。すい臓の腫瘍のせいで胆汁が漏れ、黄疸を発症していたからだ。

入院中の看病は妹と交代しつつ24時間体制で行った。当時の秋吉は、ドラマ『電車男』(フジテレビ系)をはじめ、複数本のドラマに出演しており、撮影を終えてから片道3時間以上かけて病院に向かった。徹夜の日々が続いたという。

「スケジュール的に厳しいというより、当時はドラマでコミカルな母親の役を演じていたので、その直後に気持ちを切り替えて病院に行くというのが精神的にきつかったですね。末期のがん患者にとっては風邪ですら命にかかわりますから、いつ何が起こるかわからない。“毎日が危篤”状態で、常に緊張感が途切れませんでした」

そんなあるとき秋吉は、朝の回診中にも関わらず、まさ子さんのベッドの横にパイプ椅子を並べて眠りこけてしまう。

「母は私のことを幼い頃から優等生だと思っていたので、そんな情けない姿を見て残念に思ったのでしょう。“恥ずかしい”と怒っていました」

“娘はこうあってほしい”という母に対し、懸命に尽くしても応えきれないもどかしさ、切なさ――秋吉にとって看護の日々は、“母からの期待”と向き合う“試練”となっていった。