社会

《米の急騰》買い占めビジネスに乗り出す“過去に米を扱っていなかった業者”の問題 備蓄米が放出されても「直ちにスーパーでの値段が下がるわけではない」理由

日本人の生活に欠かせない米の価格が急騰している(写真/イメージマート)
写真5枚

日本人の主食として、長い間私たちの生活の土台となってきた米。いま、その価格が急騰していることで「食の安心安全」が揺らぎ、家計にも影響が及ぶ事態が起きている。背景には何があるのか、そして、どう乗り越えていけばいいのか──米をとりまく“いま”を徹底レポート。【前後編の前編】

新米が出回っても米価は急騰

「備蓄米の放出で影響があるとすれば、外食産業などが中心でしょう。単純に町のスーパーの米の値段が下がるかと言われると、それは限定的。一般消費者が実感できるほど米価が下がるということはないかもしれません」

こう指摘するのは、米の流通や農業政策に詳しい宇都宮大学助教の小川真如さん。政府は3月10~12日に21万tの政府備蓄米の放出に向けた初回入札を行うが、米の値段は急には下がらないというのだ。いま、日本の家計を直撃している「令和の米騒動」。その全貌と乗り越え方を徹底解説する。

宇都宮大学助教の小川真如さん(小川真如さんのHPより)
写真5枚

まずは、なぜ米価の高騰が起きているのか。その背景と今後の展望を正しく理解したい。「令和の米騒動」が始まったのは昨年8月。スーパーの棚から米が消えた。

「新米が出回れば、品薄は回復する」

当時の坂本哲志農水相はそう語ったが、新米が出回る秋を迎えても米価は上がり続けた。農林水産省が公表する全国のスーパー約1000店での平均価格は2月中旬に5kgあたり3892円を記録。これは前年同期の2044円の1.9倍という数字だ。現在では、店頭価格が5kgで5000円を超えるところも珍しくない。

小川さんは米価急騰の原因について「需要と供給の両面で、2023年産の米が例年の動向から大きく変化があったことが影響しています」と語る。

「記録的猛暑の影響で、米の品質が大幅に低下しました。さらに、これまで減反政策や生産調整で生産面積を減らしすぎたことが仇となり、主食用米の生産量が農水省の見通しを8万t下回った。その結果、市場に出回る米の量が大きく減ることになったのです」(小川さん・以下同)

スーパーの米の価格は、5kgあたり5000円近くまで高騰。「令和の米騒動」と呼ばれる事態に陥っている(時事通信フォト)
写真5枚

想定外の需要の増加もあった。

「これまで日本では、“米の消費量は年々減っていく”と予想されてきました。しかしウクライナ戦争の影響で小麦の値段が上昇。パンや麺類よりも米の方が割安感があるということで、米の需要が拡大しました。さらに、新型コロナウイルスが5類に移行しインバウンドが急拡大したことで、中食・外食産業や宿泊施設での需要が増えて、卸業者が一気に米の確保に奔走しました」

供給が減っていたところに、“家計の味方”としての需要増が重なった──その結果、米不足が起きて米価が高騰し始め、米の「争奪戦」が始まるにいたったのだ。

米を買い占めた“真犯人”とは

猛暑による不作に見舞われた2023年を経て、2024年に国内で生産された主食用米は前年より18万t増えた。しかし、JA全農などの集荷業者が買い集めた米は前年より、なぜか21万t減少している。この“消えた21万t”について江藤拓農水相は「どこかにスタック(滞留)していると考えざるを得ない」と会見で眉をひそめた。

江藤農水相(時事通信フォト)
写真5枚

「JAが確保する以外の米は、民間業者を経てスーパーや外食に流れたり、農家が直売したりします。今回の米騒動では、生産された米を一部の民間卸業者が買い占めたことで、市場への供給が滞った。それが価格高騰を招いている面もあるとされます」(農業ジャーナリスト)

一体どんな業者が米の買い占めを行っているのか。

「米は場所さえあれば、誰でも保管できるため、今回の米騒動を商機とみて買い占めに走る民間業者が現れています。例えば、大きな倉庫を所有する鉄くず業者が“米は儲かる”と考えて米の売買に手を出すケースや、中国人やベトナム人など、外国人が米をかき集めているとの話も聞きます。米価の先行きが不透明ななか、とりあえず確保しておこうと、過去に米を扱っていなかった業者が米ビジネスに乗り出しているようです。

そういった業者が、管理状況が悪く害虫がわいた米などを市場に出す可能性があるため、今後、異常に安い米や、出所がよくわからない米には注意が必要です」(前出・農業ジャーナリスト)