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《認知症予防にも》野菜高騰のいまこそ「プランター野菜栽培」“節約だけではない”メリットと初心者でもできる始め方のコツ

野菜栽培
野菜高騰のいまこそ「プランター野菜栽培」を。自然菜園コンサルタントの竹内孝功さんがプランターで育てたミニトマト(写真提供/竹内孝功)
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輸送費高騰や天候不順などから野菜の価格の高止まりが続いている。このままでは家計がもたない――。そんな不安からか、家庭菜園に関心が集まっている。なかでもプランターでの野菜栽培は、ベランダなどの限られたスペースでもできて、節約だけでなく、認知症予防など健康効果も期待できるという。いますぐ始められるワザを、達人や経験者に徹底取材した。

野菜を自分で作るメリットは節約だけではない

「豆苗やかいわれ大根は根がついたまま販売されているので、葉と茎を切って食べたら、根は水に浸けて栽培しています。どちらも2~3回収穫できるので、家計の役に立っています」

とは、都内在住の主婦・Mさん(48才)だ。豆苗は1袋113円(※SEIYUネットスーパーの2025年3月31日現在の価格を参考)。3回収穫したら226円の節約になる。Mさんは今後、ミニトマトを栽培してみたいという。

ミニトマト
プランター栽培で作るミニトマト(写真提供/竹内孝功)
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Mさんのように、節約のために豆苗などの再生栽培から野菜作りの楽しさにハマっていく人が増えている。こうした家庭菜園が注目されるようになったのはコロナ禍のことで、物価上昇にあえぐいま、それがさらなるブームになった。「自然菜園スクール」を主宰する自然菜園コンサルタントの竹内孝功さんは言う。

「コロナ禍でおうち時間が増え、自宅でできるプランター栽培を始めたいと、私のスクールにも希望者が殺到。生徒さんが約2倍に増えました。プランター栽培は畑と違って広いスペースがなくても手軽に始めやすい一方で、畑に比べて土の量が少なく根が張れる面積が少ないため、いくつかのコツが必要です。それでも自分で育てた野菜のおいしさに感動し、栽培を続ける人がほとんど。育てる野菜の種類によっても難易度は変わるので、デビューするなら初心者でも育てやすい野菜から初めましょう」(竹内さん)

ピーマン
自分で育てた野菜のおいしさに感動するはず(写真提供/竹内孝功)
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野菜を自分で作るメリットは節約だけではない。おいしさ、安全性の高さ、そして、日々成長する植物を見ることで得られる楽しさや癒しもある。

土に触れるとストレスホルモンが減り、幸せホルモンが増える

野菜作りで得られる節約以外のメリットとして、ストレス解消や癒し効果があるようだと、前出の竹内さんは実体験から語った。実際、土いじりにはヒーリング効果があると、エビデンスをもとに教えてくれたのは、順天堂大学医学部附属順天堂医院緩和ケアセンターの医師・水嶋章郎さんだ。

竹内さんがプランターで育てたミニトマト
土いじりにはヒーリング効果がある(写真提供/竹内孝功)
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「農作業を体験した人たちの唾液の成分を調べ、自律神経の変化などの調査を10年以上にわたって行ってきました。その結果、農作業後の対象者の唾液には、ストレスホルモンのコルチゾールが減少し、幸せホルモンのオキシトシンの増加が測定されました。オキシトシンは、土いじりだけでなく、自ら収穫した野菜を食べることでも増加が認められています。

都市部に住む人にとって土いじりは非日常的な作業ですが、そうした日常とのギャップが大きい作業ほどストレス解消効果が高いというデータもあります」(水嶋さん・以下同)

いちご
自ら収穫したいちごを食べると、幸せホルモンのオキシトシンが増加(写真提供/竹内孝功)
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土いじりは、ひとりで行っても癒し効果が得られるが、人と一緒に行うことで、よりオキシトシンの分泌が促進されるのではないかという。

「オキシトシンを“絆ホルモン”と呼ぶ研究者もいます。親子で土いじりをすれば情操教育になるうえ、親子の絆も深められます。さらに高齢者が土いじりをすることで、昔の経験や知識が思い出されて脳が活性化。認知症予防にもなると思います」

プランター栽培におすすめの人気野菜
プランター栽培におすすめの人気野菜
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いきなりプランターで野菜作りをするより初心者は栽培キットから

野菜作りは、家計と心と脳に“効く”とあっては、始めない理由がない。

ただし、やみくもに始めても、“失敗の種”になってしまう。種苗メーカー「サカタのタネ」でグリーンアドバイザー園芸ソムリエを務める新井裕之さんは、「初めてプランターで野菜を栽培するなら、トマトやなすなどのような実のなる野菜よりも、まずは小松菜やリーフレタスなどの葉野菜がおすすめです」と、アドバイスする。

「肥料や水やり、害虫駆除などは、野菜によって適切なタイミングが異なるため、複数の野菜を一度に育てるのは難易度が高いといえます。育てたい野菜で選ぶより、育てやすい野菜1種類から始めた方がいいでしょう。収穫の成功体験を重ねることで楽しさややる気につながるので、プランター栽培の前に『栽培キット』を活用するのもひとつの手です」(新井さん・以下同)

栽培キットとは、あらかじめ土や肥料、容器などがセットされたもので、用具を準備する必要がないうえ、収穫が比較的早く、失敗が少ない。室内で育てられるものもある。

「弊社では、初心者でも失敗しないような土を扱っています。水を入れて膨らませれば野菜用の培養土になるというものなのですが、これに葉野菜の種をまいて水を与えれば、1か月半ほどで収穫できます」

収穫後の始末もラク!初めての野菜栽培は使い切りアイテムで

種も土も使い切り。袋の中で育てられる!

「スピーディベジタブル」シリーズ「水でふくらむココヤシ培養土(袋で育てるはじめてセット)」330円、「ガーデンレタスミックス」(種)220円(いずれもサカタのタネ)は、袋の中の圧縮培養土に水を入れてかき混ぜ、別売りの種をまけば袋のまま育てられる。種は全20種。

「スピーディベジタブル」シリーズ「水でふくらむココヤシ培養土(袋で育てるはじめてセット)」330円
「スピーディベジタブル」シリーズ「水でふくらむココヤシ培養土(袋で育てるはじめてセット)」330円(サカタのタネ)
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「ガーデンレタスミックス」(種)220円/いずれもサカタのタネ
「ガーデンレタスミックス」(種)220円(サカタのタネ)
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水やりだけでトマトが育つ!

「KAGOME そのまま育てるトマトの土」約1300円、いちばん人気の「こあまちゃん」約390円(いずれもKAGOME)は、袋の中の培養土に別売りの苗を植え、支柱を立てたら、あとは追肥なしで水だけで育てられる。栽培終了後、土もトマトの茎も燃えるゴミで捨てられ、処分が簡単なのも魅力。

「KAGOME そのまま育てるトマトの土」約1300円(KAGOME)
「KAGOME そのまま育てるトマトの土」約1300円(KAGOME)
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いちばん人気の「こあまちゃん」約390円(KAGOME)
いちばん人気の「こあまちゃん」約390円(KAGOME)
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※栽培に関して不明点がある場合は、各社のホームページで確認したり、お客様相談室にお問い合わせください。

育てられる野菜は環境で決め、近隣に迷惑をかけないよう虫対策を

栽培キットなどでの成功を経て、本格的にプランター栽培をしようと決めたら、まずやるべきことは、栽培環境の確認だ。特に、日当たりのチェックが重要だと新井さんは言う。

「人気が高い夏野菜のミニトマトやなす、きゅうり、ピーマンなどは南向きで日当たりのよいベランダで1日6時間ほど直射日光に当てると生育がよく、味のよい野菜が育ちます。

一方、パセリやしょうがなどは半日陰に、みょうがなどは日陰での栽培が適しています」

ナス
さまざまな野菜がプランター栽培で作れる(写真提供/竹内孝功)
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ベランダの日当たりに合わせて育てる野菜を決めるのがおすすめだ。

「初心者でも、レタスのような葉野菜なら種から育てても成功率は高いのですが、ミニトマトやピーマンのように実のなる野菜を育てる場合は、種ではなく苗から育てる方がよいでしょう。弊社のお客様相談室にも『種をまいたが芽が出ない』という問い合わせが少なくありません」

ベランダで栽培する場合、忘れてはいけないのが、隣家など周囲への影響だ。土を使って栽培すれば、アブラムシやカメムシ、アリ、クモといった虫やナメクジ、鳥などが寄ってくる。せっかくの野菜を食べられないようにするだけでなく、周りに迷惑をかけないためにも、害虫&害獣対策は必須。

「土に防虫用の粘着シートを挿したり、殺虫殺菌スプレーをかけたりして、虫が増える前に素早く対応することが大切です」

栽培の仕方でも虫などの被害は減らせるという。

「そもそも野菜自体の免疫力が弱いと虫がつきやすく、病気にもなりやすいので、野菜を健康で丈夫に育てることが大切です。そのためには、旬に合った時期に栽培すること。クモなど、害虫の天敵を増やすことも有益です。そして、コンパニオンプランツ(後述)を活用することで、農薬を使わずとも虫害を抑えられます」(竹内さん)

ベランダでプランター栽培をするなら、まず確認を!
ベランダでプランター栽培をするなら、まず確認を!
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プランター栽培で用意するもの
プランター栽培で用意するもの
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初心者が守るべきはプランター選び、苗選び、土選び、水のやり方の4点

前出のコンパニオンプランツとは、近くで一緒に栽培すると互いに生育が促進され、病害虫の被害を減らせる植物のこと。初心者でもこの方法を取り入れて栽培できると、竹内さんは言う。

「私が教えている自然菜園では、農薬を使わず自然に育つ仕組みをプランターで再現しています。そのために、コンパニオンプランツも取り入れています。これからの季節におすすめなのは、ミニトマトと一緒にバジルや小ねぎを植える組み合わせです。バジルの香りでトマトに虫がつきにくくなり、逆にミニトマトが赤くなると、その色を嫌がり、バジルに虫がつきにくくなります」

プランター栽培
「ピーマン」×「なす」×「にら」はおすすめ(写真提供/竹内孝功)
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ちなみに、「ピーマン」×「なす」×「にら」、「いちご」×「にんにく」「ねぎ」、「メロン」×「ラディッシュ」、といった組み合わせもおすすめだという。さらに知っておくべきは、プランター・苗・土選び、水のやり方の4点。

「プランターは、大きくて水を5~7リットルためられる底面給水プランターを。大きさの目安は、縦30cm、横60cm、深さ25cm程度。土は花用ではなく、野菜専用培養土でゼオライトを含むものがいいでしょう」

ゼオライトとは細かい穴が無数にあいた鉱石で、通気性がいいため、根に空気が届きやすく、根腐れを防げるのだという。

「余裕があれば、防虫効果のある“くん炭腐葉土”を野菜専用培養土の上に薄く重ねるのがおすすめです。

苗は双葉がついているような若くて小さい苗を選ぶことが大切。初心者はある程度育った大きい苗を選びがちですが、花や実がついていると、養分がそちらに取られ、植えたときに根が張りにくいんです」

ミニトマト&バジル&小ねぎの植え方
ミニトマト&バジル&小ねぎの植え方
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ミニトマトとバジル、小ねぎを植える位置は上の図を参考にしてほしい。ミニトマトの苗の根元に市販の根つき小ねぎ(上部の緑色の部分を半分ほど切った白い部分)を2本ずつ植えると、小ねぎがミニトマトを病気から守ってくれる。

「買ってきたばかりの土は乾いているのでプランターの下に水がたまるまで水をやり、その後は週に1回程度、底面の水が切れ、土が乾いたら水やりをします」

4月に植えたミニトマトは7月頃に実をつける。いちばん下の茎に実がついたら折れないよう、ひもで支柱に縛り、実が赤くなったら2週間に1回、ミニトマトの根から離れた部分(上図①~③の部分)に栄養となる固形発酵油かすを埋め、そこに水をかける。実がついている間はこれを2週間ごとに3回程度繰り返す。養分は与えすぎると実がつきづらくなり、虫も増えるので注意すること。

ミニトマト
ミニトマトは赤くなったものからその都度収穫を(写真提供/竹内孝功)
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「ミニトマトは赤くなったものからその都度収穫します。そして収穫後の夕方に水をやると味が薄まらずに育ちます。バジルは脇から出てきた小さい芽を残して先端の葉を摘み、水を入れたコップにさしておくと、1週間程度もちます。小ねぎは月1回程度、緑の部分だけ切って、白い部分は抜かないでおきましょう」

市販のミニトマトは10個で約200円。一度に100個収穫できることもあるというので、それだけで約2000円に。かなり節約になる。収穫が終わった後の土は疲れていて、そのままでは再度野菜の栽培はできない。居住地域の規則にしたがって廃棄するのが妥当だが、堆肥や再生材などを使うと再生できるので、慣れたら挑戦するのも手だ。

節約はもちろん認知症予防など、プランター栽培にはいくつものメリットがある。

プランター栽培の手順(ミニトマト&バジル&小ねぎ編)
プランター栽培の手順(ミニトマト&バジル&小ねぎ編)
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◆自然菜園スクール代表・竹内孝功さん

自給自足Life代表。有機農業を独学で学び、(公財)自然農法国際研究開発センターの研修を経て、長野県・安曇野で無農薬菜園教室を開設。著書に『プランターで育てる ぐるぐる自然菜園』(ブティック社)など。https://www.shizensaien.net/

※女性セブン2025年4月17日号

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