
エンディングノートを書き、遺言書を作成、葬儀やお墓の準備にデジタルデータの整理――。これで終活は一段落かと安心するのはまだ早い。「庭」も実は終活必須項目の中に組み込まれているのだ。コストは? タイミングは? どこから始める? “庭じまいのプロ”が教える絶対に失敗しないメソッドとは?
庭に関しては後回しになっているケースが多い
父親が5年前に亡くなり、ひとり暮らしをしていた85才の母親が介護施設に入ってから約半年経ったある日、久しぶりに実家の様子を見に行った神奈川県在住のAさん(50才)は庭に足を踏み入れて愕然とした。
「草木が伸び切った庭のどこかにスズメバチが巣を作っていて、怖くてとても歩ける状態ではありませんでした。“実家の後始末”をそろそろ始めないと…とは思っていましたが、庭のことは想定外。
慌てて業者さんを呼んで蜂の巣を駆除してもらい、草木の伐採もお願いしました。結構な金額で家計には痛い出費。急いで依頼したので言われるがままお金を払ってしまい、いまになって後悔しています」
終活ブームで身辺整理に励む人は増えているが、庭に関しては後回しになっているケースが多い。実家片づけアドバイザーの渡部亜矢さんが指摘する。
「庭に貴重品があるわけではないので、いつかやろうと思いつつそのままにしてしまう人が多いです。多くは自宅より親が所有する実家のケース。離れて暮らしているので近所から苦情がきて、慌てて対応に追われる人も少なくありません」

1970年代以降のマイホームブームで一戸建てを建てた親世代が高齢になり、自己管理が難しくなった結果、空き家が急増。地方を中心に、庭つきであることが多く、“庭じまい”は実家の後始末の大きな壁となっている。家じまい、庭じまいは女性が担うケースが多々あり、手遅れになる前になんとかしたいが、対応方法や費用については素人には判断が難しい。庭じまいで損をしないためにはどうしたらいいのか。
木が自然発火してボヤ騒ぎを招く
庭木の伐採や剪定などを手がける造園業者・井越企画社長の井越柊さんによれば、庭じまいの相談でいちばん多いのは、冒頭のように蜂などの害虫や鳥に関するトラブルだという。
「空き家に鳥が巣を作っていて鳴き声がうるさいとか、車にフンをされたといったクレームが隣家から入り、持ち主が慌てて庭じまいを発注するケースがよくあります。特に都内のように家の間隔が狭いところでは、少しの期間放置しただけでも木の枝が隣家に入ってしまうので問題が発生しやすいです」(井越さん)
なかには放置された庭が原因で近所との関係が悪化し、取り返しがつかない事態を招いてしまうことも。
「大きなトラブルに発展してしまうとお金では解決できません。せっかく家を相続しても、お隣さんとうまくいきそうにないという理由で住めなくなり、売却することになる可能性もあります」(渡部さん)
周囲に迷惑をかけるだけでなく、庭が荒れ放題になっていると防犯・防災面でもリスクが高まると井越さんは指摘する。
「外から家の中の状況がわからないくらい木が生い茂っている家に行くと、庭にコンビニのポリ袋や家庭ゴミが投げ入れられていることが非常に多いです。もしたばこの吸い殻が投げ込まれてしまったら、すぐに木や草に燃え移ってしまいます。また、木を放置していると自然発火してボヤ騒ぎになる危険性もあります」(井越さん・以下同)
台風シーズンが訪れれば、さらに予期せぬ事故につながる可能性があるという。
「手入れが行き届いていない木は虫が食っていたり、栄養が足りず弱っていたりする場合があり、強い風が吹いたりすると簡単に倒れてしまう。倒れるだけならまだしも、家のガラスが割れたり電線に引っかかって断線することもあり、大きな事故になりかねません」
枝を切ろうとしてベランダから転落
早めにやるに越したことはないが、やみくもに手を出すと面倒な事態を招きかねない。愛知県在住の神山美由紀さん(仮名・58才)も、苦い経験をしたひとりだ。
「両親は3年前に揃って老人ホームに入居しましたが、実家や庭の片付けはふたりが亡くなってからにしようと思いそのままにしていました。夫が“おれが手入れするから大丈夫”といって剪定などをしてくれていたのですが、やり方が悪かったのかしばらくすると枯れてしまいました。
どうやら根元が腐っていたみたいで…強風が吹いたときに傾き、隣家の車の上に倒れそうになったんです。幸い、車は傷つけずにすみましたが、最初から専門業者に頼んでおけばよかったとつくづく思いました」
庭の手入れはいざやろうとすると想像以上に難しく、「自分でできるだろう」という素人の甘い考えが、事故やけがにつながることもあるという。

「2階のベランダから枝を切ろうとして転落しそうになる人もいます。草刈りを自分でやろうと機械を買ってきたら、飛び石で家のガラスが割れてしまったり、隣家の車に当たったりするケースもよくありますね。庭仕事には特殊な道具が必要な場合もあるので、専門の業者に頼むのが安全です」(井越さん・以下同)
草木を整えるのには専門的な技術が必要になるが、庭に放置されている物の整理なら、いますぐに取りかかることができる。まずはこまめに庭を整理することが庭じまいの第一歩になる。
「庭に置かれた倉庫の中に使うあてのない段ボールがたくさん積んであったり、すごい量の食器や花瓶が置かれていたりすることがよくあります。まとめて捨てようとすると何万円も費用がかかるので、日頃から少しずつ不要なものを処分するようにしましょう」

自分たちでできる範囲の整理をすることで、自然と庭じまいの話題を持ち出すことができるようになる。
「始める目安としては、親が自分で手入れするのが難しくなってきたかどうか。“ご近所に迷惑がかかるから、そろそろ業者さんに頼む方がいいよね“と持ちかけてみましょう。いまなら台風で木が倒れたら大変だからとか、枯れ葉も増えるし自分で掃除するのは面倒だよね、と持ちかけるのもいいでしょう」(渡部さん・以下同)
「親任せ」にするとトラブルに
ちょっとしたマイナーチェンジをするだけでも手入れがぐんと楽になる。
「たとえば生け垣などはこまめに剪定しなければならず、維持に手間がかかります。親が元気なうちに生け垣をフェンスにしてくれただけで、手入れが楽になりすごく助かったという話を聞いたことがあります」
親と相談して庭じまいを始めれば、子供の金銭的負担も軽減される。
「両親が庭にすごく凝っていて立派な池を作っていたり、ジオラマで線路を走らせていたりしていたらなおさら後始末が大変です。庭の一部をコンクリートで固めていたら造園業者では対処できないため、解体業者が重機を入れて取り壊すことになります。それこそ場合によっては数百万円など高額になるかもしれない。親が亡くなってからにしようと庭じまいを先延ばしにしていると、すべての費用を子供が丸抱えすることになってしまいます」
いざ庭じまいの意思が固まっても、業者探しを「親任せ」にするのは危険だと渡部さんが続ける。
「親が“自分でできるから”といって頼んだ結果、高額な費用を請求されてしまったケースもあります。特にひとり暮らしの高齢者や、男性に比べて抵抗力の弱い女性は思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれないので、注意が必要です。
見積もりを取る際や工事当日には、親と一緒に自分もできるだけ立ち会いましょう。自分の庭じまいをやるときも、ひとりではなく誰かに立ち会ってもらうことをおすすめします」
見積もりは複数の業者に相談して相見積もりを取るのが鉄則だ。
「見積書に“庭整理一式”などと書いてくる業者は要注意。伐採費、運搬費、処分費など明細が具体的に書かれている方が信用できます。追加料金が発生する場合があるのかどうか、作業中に隣に被害が起きた場合のために保険に加入しているかどうかなども確認しておくと安心です」

施工後に連絡を絶つ悪徳業者に要注意
一方、庭じまいを請け負う立場から、井越さんは「業者に要望を明確に伝えることが大切」だと話す。
「庭じまいには明確なゴールがないんです。木を切るだけなのか、根っこも抜いて平らに整地するのか、さらに砂利を敷くのか、コンクリートで固めるのか、いろんなやり方があります。お客さん自身がゴールがわからないまま頼んでしまうと、施工した後に“思っていた仕上がりと違う”ということになりかねません」(井越さん・以下同)

ネットで仲介サイトが造園業者や植木屋を紹介してくれるシステムもあるが、井越さんは注意喚起する。
「仲介サイトを利用すると、どこからやって来たのかよくわからない業者が来ることがあります。たとえば、埼玉県で依頼したのになぜか神奈川県の業者が来たりする。しかも名刺を持っておらず、施工後にトラブルが起きて問い合わせたくてもどこに連絡したらいいかわからない、ということになりかねません」
信頼できる業者を見抜くポイントは「口コミ」と「自社施工」だという。
「できれば地域に根付いた、近隣での口コミの評判がいい業者が安心です。
もうひとつの大切なポイントは自社施工しているかどうか。見積もりに来た業者が仕事を取るために安く請け負って、別の施工業者がその金額内で収めるために安物を使うということもあります。たとえば防草シートはピンキリで、非常に品質の高いものからホームセンターで売っているような安いシートまである。施工業者が安いシートを使ったために、1年後にはもう1回違う業者に頼まなければならなくなるというのもよくある話です。要望を細かく聞いてくれたり、いろいろな提案をしてくれる業者は信頼できる可能性が高いです」
「とりあえず放置」も「安易な手出し」もNG。プロが教える正しい知識で、絶対に損をしない庭じまいを実現したい。
※女性セブン2025年9月25日・10月2日号