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《心がしおれてしまわないように》杉良太郎「ただ長生きするのではなく、健康で長生きを」第五回杉友寄席で語った「健康は心から」の極意

聴衆に「健康」について語りかける杉
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「東京拘置所へは、前座の時から慰問に行かせてもらっていまして。(拘置所の)図書室が控室になっているんですが、そこによく杉良太郎さんの啓発ポスターが貼ってあるんです。私からすると、杉さんは“刑務所慰問のスター”。毎年、何回か拝んでおります」

一風変わった“まくら”で落語が始まったのは、第五回「杉友寄席」。15才から66年余り刑務所への慰問や視察などを続ける、歌手で俳優の杉良太郎が席亭を務める。

法務省特別矯正監、厚生労働省特別健康対策監、警察庁特別防犯対策監を務める杉が催す落語会だけに、第一回と第四回は特殊詐欺対策、第三回は防災の観点から災害時のペット同室避難をテーマにするなど、毎回落語を通じて、様々な観点から啓発をしてきた。

11月5日に都内で行われた今回は、第二回に続いて健康がテーマに選ばれ、「笑いで育む、心とからだの健康寿命」と題して開催。寄席に先駆け、厚生労働省「知って、肝炎プロジェクト」肝炎対策特別大使の伍代夏子が登壇して、趣旨を説明した。

「厚生労働省では『健康一番プロジェクト』という取り組みがあり、皆さんへ、年齢を重ねても病気にならず、心身共に元気に生きるための健康づくりを発信しています。まずは自分のカラダに関心を持つこと。“夏にバテやすい”“風邪を引いたら咳が長く続く”など、自分の弱点を知っておくことは健康づくりの基本です」

伍代はそう呼びかけて、“まごわやさしい”を採り入れた食生活などを勧め、「健康長寿とは、心身ともにすこやかであること。カラダだけではだめなんです。長いこと生きていれば、悩みもありますよね。曇った気分を打ち消してくれる方法が、笑うこと。今すぐ簡単にできる、楽しい健康法です。笑った顔を鏡で見ると、さらに脳に幸福ホルモンが分泌されます。たとえ面白くなくても、とにかく笑うこと。いいですか?(笑い)今日は落語で笑って、心から健康になってください」と、会場をあたためて、お待ちかねの落語がスタート。

伍代は「まずは自分のカラダに関心を持つこと」と語った
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落語協会と落語芸術協会の違い

今回は30~70代の5人の落語家が高座へ上がり、各々の話芸で会場を沸かせた。一番手は冒頭のまくらを話した古今亭菊正が、有名な演目「まんじゅうこわい」を披露。来年に真打へ昇進する雷門音助が「加賀の千代」、ベテラン・初音家左橋が「時そば」と続くと、客席もすっかりリラックス。周囲を気にすることなく笑い声をあげ、ツボに入れば、さらに笑い続ける。

この日の紅一点・江戸家まねき猫の「動物ものまね」には、磨き上げられたその芸に笑いながら感嘆の声も。トリは桂伸治で、出囃子が始まると、「たっぷり!」の掛け声も飛び、演目「あくび指南」に聴き入って、観客は落語の世界に酔いしれた。

すべての演目が終わると、客席で観ていた杉が「健康がテーマだったのに、噺にひとことも健康が出てこなかったね」と笑いながら、登壇。会場を見渡し、「今日は初めて落語を聴く人もいらしたようですね。それがとてもよかった」と席亭としての想いを語り始めた。

「初めての人に落語へ親しんでもらうのが、『杉友寄席』での私の目的なんです。『時そば』などおそらく名称を聞いたことがある演目から、聞いたことがなかった演目まで幅広い話芸に触れてもらって、新鮮な気持ちで笑ってもらった。これを機に古典落語、そして若い噺家さんたちも見守って、どうか育ててあげてほしいと思います」(杉)

進行を務めた吉原朝馬によると、高座へ上がった落語家は2名が落語協会所属で3名が落語芸術協会の所属。「いろいろな芸を観てもらいたい」という杉の要望を受けた顔ぶれだったという。ここから「健康啓発トーク」コーナーとして出演者と伍代がステージへ合流。お題にかけて、日常の笑いを落語家たちに問うと、彼らが所属する協会の意外な違いが明らかになった。

「(落語)芸術協会はみんなでわぁわぁ楽屋でしゃべるんですよ。今日のメンバーで言うと、私と江戸家まねき猫さん、雷門音助さんです。盛り上がるのは、失敗話。あと女性の話(小指をピッと立てて)。その失敗する話がいちばん面白い(笑い)。芸の話は楽屋でしちゃうと、けんかになっちゃうのでしません。協会によって微妙な違いがあるんです。野球の話もファンはそれぞれですから、けんかになっちゃう」

そう落語芸術協会の桂伸治が明かせば、落語協会の吉原朝馬が「われわれはそういう話はしないんですよ。まじめで寡黙ですから。楽屋ではしゃべりません」と、落ち着いた調子でぽつり。対照的だが、杉によれば、二人は若い頃からの気心が知れた仲のようだ。

「この二人と出会ったのは1980年代。伸治さんや朝馬さんが二ツ目、私が三ツ目くらいだったな(笑い)。私がちょっと、歳が上。お互い、歳を重ねました。皆さん、健康については何か気をつけていますか」(杉)

落語には「前座」→「二ツ目」→「真打」という3つの階級があるなかで、「三ツ目」という杉のジョークにまじえて、話題は健康に。

寄席の後は、全員で「健康談義」
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心は青春だと思いながら、たくさん笑って

桂伸治が「最低1時間以上は歩く、日々の散歩。長いと4時間くらい歩きます」、初音家左橋が「糖尿病なのでアイスクリームを食べない健康法」など、順に日課を語ると、伍代が散歩にまつわる杉のエピソードを披露。

「ウチではワンちゃんを2匹飼っていて、杉さんと一緒にお散歩に行くんですよ。脚の短い子たちですが、犬のほうが歩くのが速いですよね?(笑い)」

そう言って杉へ視線を向ける伍代。シニア層が多い客席では「わかる、わかる」と相槌を打ちながら、笑いが広がった。伍代は「杉さんは食べ物にもすごく気をつけていますし、毎日のお散歩など、運動は続けることがやっぱり大事だと思いますね」と続け、自分に言い聞かせるように頷く観客も多く見られた。

「ただ長生きするのではなく、健康で長生きをしないと。歳を取って(高齢者)施設でずっとベッドで過ごすのは大変なことですよ。できる限り自分の足で歩いて、自分で食べて。認知症や脳の衰えを防止するためにも、歩いたり、ダンスをしたりと、カラダを動かすことが大事です。

ただね、さっき伸治さんがたくさん歩くと言っていたけれど、負担を考えると、長くないほうがいい。1日30分で十分だと思いますよ。左橋さんも、老い先を考えても、我慢ばかりして生きていくのは味気ないよね。許される範囲で食べたいものは食べて、そのぶん、動けばいいんです」(杉)

“あれもだめ、これもだめ”では心がしおれてしまう。そうではなく、“適度に”“ほどほどに”楽しみながら、カラダをいたわる。最後に杉は、「健康は心からきます。自分はトシだと、あまり思わないように。心は青春だと思いながら、たくさん笑って、健康で長生きしてくださいね」と、笑顔で観客に呼びかけた。

笑いと健康が見事にマッチした寄席だった
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次の第六回のテーマも楽しみだ
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