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《上演30周年スペシャル》劇団四季『美女と野獣』舞台監督が明かす、新しくあり続けるための仕掛け 

本作を象徴するダンスシーン。ベルの黄色いドレスには360度、花や鳥の豪華な手縫いの刺繍が施されている(C)Disney
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 1995年、東京・大阪の2会場で同時上演された『美女と野獣』を皮切りに、30年にわたってディズニーミュージカルを上演し、計7作品で3200万人以上を動員してきた劇団四季。『女性セブンプラス』では、ディズニー・シアトリカル・グループと劇団四季が初タッグを組んだ原点ともいえる『美女と野獣』の30周年特別カーテンコールの模様に加え、愛情たっぷりの舞台装置へのこだわりをお届けします!【前・後編の後編。前編を読む

物語の世界観を崩さず、俳優が演じやすい舞台に 

 11月24日、劇団四季による日本上演30周年を迎えた『美女と野獣』。特別カーテンコールは観客のスタンディングオベーションで迎えられ、惜しみない拍手が贈られた。

 2022年から舞浜アンフィシアターで上演中の公演は、初演(1995年)のクリエイティブスタッフが自ら再構築を手掛けた新バージョン。台本や演出がリニューアルされたほか、舞台美術も一新された。

11月24日に『美女と野獣』は上演30周年を迎えた(撮影/荒井健)(C)Disney
11月24日に『美女と野獣』は上演30周年を迎えた(撮影/荒井健)(C)Disney
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 主人公は、“変わり者”と呼ばれる美しい娘ベル。読書と空想が大好きで、町いちばんのイケメン・ガストンの求婚にも興味がない。そんなベルを男手ひとつで育てた父モリースもまた、周りから見れば“風変わり”な発明家。モリースが登場するシーンの小道具について、そのこだわりを舞台監督の福永泰晴さんが明かしてくれた。

モリースの発明したヘルメットを手に、小道具のこだわりを語る舞台監督・福永泰晴さん
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モリースの発明品は多機能で工夫がいっぱい 

 福永さんの舞台監督歴は11年ほど。これまでは『キャッツ』を長く担当してきた。

「『美女と野獣』は舞浜アンフィシアターの半円状にせり出した、特殊な舞台ならではのステージングを意識しています。お客さまが見やすいように装置の配置や俳優のステージングを従来と変えているのが特徴ですね」(舞台監督の福永泰晴さん・以下同)

舞浜アンフィシアターは半円状に舞台がせり出している。舞台手前に来る俳優と客席との距離が近く感じられるのがうれしい
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 小道具についても、細かいこだわりが随所にある。たとえばベルの父モリースが登場するシーン。

ベルの父で発明家のモリース。自作の乗りものに乗って発明コンクールに出かけるが…(撮影/下坂敦俊)(C)Disney
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「工具や日用品など家にあるものを寄せ集めて作った“発明品”に乗って登場するのですが、発明という名前にふさわしく、乗りものなのにペダルをこぐと歯車が噛み合って、薪割りができるしくみになっています。歯車は上演した分だけ摩耗していくので、こまめにメンテナンスしています」

モリースが被るヘルメットには、ノギスやレンチ、ロートなどの工具に混じり、ラッパも装着されている。クラクション代わりに鳴らすシーンも
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ヘッドライトの代わりに、ろうそくの炎を鏡に反射させている。チラチラと炎がゆらめく仕掛けに
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ペダルをこぐと後部車輪近くの斧が降りてきて薪を割り、下のカゴにイン。実用的な機能も備えている
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レバーを押すことで歯車が噛み合うしくみ。歯先が摩耗したり損傷すると噛み合わせが弱くなって作動しにくくなるため、日々チェックを怠らない
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日本だけの、思いやりあふれる2つのこだわり

 なんと、亡き愛妻の青い編み上げ靴を履かせたストッパーは、日本だけのオリジナルだそう。

「海外では俳優が腕の力でストッパーを握り続けないといけないのですが、俳優の負担を減らして芝居に集中してもらうため、日本ではストッパーを固定するしくみを作りました。

 また、モリースが発明途中で失敗してしまうシーンは、ゼンマイを飛び出させるようなしくみを取り入れて、失敗をわかりやすく表現しています。

小さなことですが、世界観を大切にしつつも快適に演技ができるようにしています」

ストッパー代わりになっているのが、モリースの亡き愛妻の靴
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発明品が故障すると、ぷすぷすと煙が上がり、ボヨヨンとゼンマイが飛び出てくる。このしくみは日本だけの演出
発明品が故障すると、ぷすぷすと煙が上がり、ボヨヨンとゼンマイが飛び出てくる。このしくみは日本だけの演出
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「愛の物語」らしく“ハートモチーフ”があちこちに 

「モリースからベルへ、ベルからモリースへ、ベルと野獣、召使いから野獣へ…など、作品に込められた愛を表現するため、ハートモチーフをたくさん使っているのが特徴です。この発明品だけでなく、実は井戸や花壇などにもハートが隠れているんですよ」

背もたれの部分の飾り板はハートでくり抜かれている
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椅子がハートマークに。サイドがカラフル!
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「あなたがいて幸せ」という花言葉をもつ赤いゼラニウムが植えられた花壇の柵にも、ハートマークが。ガストンはこの花を引っこ抜いてベルに求婚するが…
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ベルの家にある井戸上部の飾りにもハートを発見!
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城の図書館はディズニーの作品づくし

『美女と野獣』では、“本好きのベル”に、2人の男性がどう反応するかがストーリーの鍵になっている。物語冒頭、町に出かけながらも、メガネをかけて夢中で本をむさぼり読むベルの様子が描かれる。「町一番のいい女。だから俺にこそふさわしい」とベルに目をつけたガストンだが、ベルが読む本を取り上げて「絵がないじゃん」と顔をしかめる場面も。

かたときも本を手放さない読書家のベル。ガストンはベルの美しさにひかれるが… (C)Disney
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 一方、野獣の城の図書館にはたくさんの蔵書が並び、ベルは目を輝かせる。そんな彼女を見て、野獣もまた頬を緩ませ、二人の距離が一気に縮まる重要な場面だが、ここにも遊び心が潜んでいる。

 約20色の鮮やかな布張りの分厚い本の背表紙をよく見ると、『The Lion King(ライオンキング)』や『Aladdin(アラジン)』などといった、ディズニー作品のタイトルが記されているのだ。

ベルの朗読に、野獣は前のめりになって耳を傾ける(撮影/荒井健)(C)Disney
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日本でも劇団四季によって上演された『FROZEN(アナと雪の女王)』など、おなじみのタイトルの本も
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『The Hunchback of Notre Dame(ノートルダムの鐘)』も発見!
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 日本ならではの工夫も織り交ぜながら、細部にまでこだわって、物語の世界観を作り出す『美女と野獣』。福永さんの「この作品は、お客さまに一見してわからないようなアップデートがされ続けている」という言葉が印象的で、ストーリーはもちろん、裏方のスタッフにも愛があふれる。

 この不朽の名作は、2026年3月15日に舞浜アンフィシアター公演の千秋楽を迎える。ぜひ劇場に足を運んで、30年間にわたって紡がれてきたさまざまな愛を、大切な人と感じてほしい。

取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥

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