ライフ

《看取る力》家族を幸せに送るために大切なことは、希望を聞いておく「人生会議」や「エンディングノート」 本人が“生きていてよかった”と思う看取りができればベスト

悔いのない看取りを実現するためには(写真/PIXTA)
写真3枚

 死は誰にでも平等に訪れる。それは長い闘病を経てかもしれないし、突然やって来るかもしれない。そのとき、残された者には「あのとき、ああすればよかった」との心残りが生まれるという。完璧な別れ、看取りはないからこそ、少しでもそれに近づくために知っておきたい「知識」を専門家に聞いた。【前後編の前編】

悔いのない看取りを実現するために

 寿命が延びて超高齢化が進んでも、親との別れは突然やって来る—昨年1月、まだ元気だと思っていた67才の父が急死した、Aさん(41才)が、悲痛な表情で打ち明ける。

「高血圧ではあったけど、まだまだ長生きしそうだった父がお正月に脳出血で倒れ、2日後に旅立ちました。私はミュージシャンという夢を追いかけて親に迷惑ばかりかけてきたけど、ようやく生活が安定して、これから親孝行しようと思っていた矢先だったので本当にショックだった。もっと父と接していればよかったと後悔ばかり募ります」

 大切な人を亡くし、沈痛な思いに駆られる人は少なくない。葬儀関連企業などからなる「燦ホールディングス」が30〜60代の男女500人に行った「人生の最後と別れの際の思い」に関する意識調査では、亡くなった人(家族、友人など)との別れについて「心残りがある」と回答した人は75.6%に達し、「伝えられなかった言葉がある」とした人も66.4%に上った。

 事故や病気で急に亡くなる場合だけでなく闘病や介護を経て親が亡くなる場合も、できる限り悔いは残したくない。そのためにはどんな準備が必要だろうか。

「“看取る力”の有無によって、逝く人と残される人の幸福度は変わります」

 そう語るのは、一般社団法人日本看取り士会会長の柴田久美子さんだ。

「大切なのは、亡くなる親の尊厳を守ることと、家族が納得すること。どちらかを犠牲にすると結果的に看取りに後悔が残ります」

 悔いのない看取りを実現するには、親と家族以外の協力も欠かせない。鈴木内科医院の舛森悠さんはこう語る。

「親と家族を中心にして、医療・介護の従事者や薬剤師などチームの力を取り入れることも『看取る力』を強化します。そのためには適切な情報や知識を得ることが重要です」

 大切な親を上手に、幸せに送る「看取る力」をどう育むか。以下に見ていこう。

残された者がひとりで抱えないことが重要

 多くの人が後悔するのが当人の体の状態を心配するあまり、自由な行動を制限してしまい“親を苦しめたのではないか”ということ。

 都内在住のBさん(42才)の母は昨年5月に胃がんが再発した。40年以上バレエ教師を続けた母は酸素吸入器をしたまま夏の発表会に参加することを望んだが、北山さんは「何かあったらどうするの!」と全力で引き留めた。

 その後、自宅ベッドで発表会の様子をリモート鑑賞した母は翌日に容体が急変。緊急入院してから1週間後に息を引き取った。

「入院中、母は朦朧とする意識のなかでうわごとのようにバレエ用語を口にして、まるで踊っているかのように手を動かしました。

 その様子を見て、最後に発表会に行かせてあげるべきだったと猛省して、自分の判断の罪深さを感じました」(Bさん)

遺族の4人に3人が心残りがある
写真3枚

 親がどのように最期を迎えたかは、残される家族の記憶にとどまり続ける。

 その姿が痛ましいほど家族の人生に影を落とすと、『後悔しない死の迎え方』の著者で看護師の後閑(ごかん)愛実さんは言う。

「人は必ず死ぬからこそ、残された者がひとりで抱えないことが重要です。終末期の過ごし方や治療の判断には多数の選択肢があります。誰かひとりがそれらを決めることは避け、本人や家族と対話を続けることが求められます。

 さらに一度で決めるのではなく、決めた人に責任を押し付けないこともとても大事です」

 看取る側が「やらなきゃいけない」と思い、無理しすぎないことも心がけたい。

「特に看取りの最終段階では、医療・介護のチームや民間団体などの力を借りて、自分の時間をつくるようにすることが必須です。介護のために自分の時間をすべて捧げて介護離職すると、看取り後に生活が立ち行かなくなり、看取り自体を悔やむケースが多くみられます」(柴田さん)

 自分の生活が穏やかになれば親も穏やかに逝けるだろう——そう思うくらいの心意気が求められるのだ。

関連キーワード