NHKの「食生活に関する世論調査」(2016年)によると、日本人の食事回数は、3食が81%、2食が18%、4食以上が1%と、「1日3食」派が圧倒的に多い。しかし「これは食べすぎで、さまざまな病気の原因になっている」と、糖尿病専門医の青木厚さんは言う。では、健康な体を維持するための最善の食事法とは? 令和時代の新たな食べ方の新常識を紹介する。
16時間食べないだけで痩せる!健康になる!!
30代の頃はちょっとしたメタボリック体形だったという前出の青木さん。ところが2010年、40才の時に舌がんを発症。手術で取り除きはしたが、再発しないよう、健康に生きるための食事法について研究を始めたという。
「その結果、たどり着いたのが1日に何も食べない時間を16時間作る食事法です。面倒なカロリー計算もいらず、食事は何を食べてもいいので簡単。週に1回行うだけでも効果があるので、ストレスなく続けられるんです」(青木さん・以下同)
青木さんはこの方法を続けた結果、4か月でウエストが8cm減ったうえ、疲労が軽減。9年経ってもがんが再発していないという。
「1日3食の食習慣では、カロリーや糖質を摂りすぎてしまい、肥満はもちろんさまざまな病気の原因になります。1日2食にして空腹の時間を作るだけで、これらの問題をすべて解決してくれるだけでなく、健康な体になれるのです」
ではなぜ空腹で健康になれるのか?
空腹が細胞を若返らせる
そもそもなぜ、16時間何も食べないと健康になれるのか。
「人間の体は、食後12時間ほどで、肝臓に蓄えていた糖を使い果たし、今度は脂肪を分解してエネルギーとして使うようになります。そして12時間を超えると同時に、細胞内の古くなったたんぱく質を新しく作り替える“オートファジー機能”が活性化し、細胞が新しく生まれ変わるのです」
細胞を飢餓状態にすると、細胞が生まれ変わりやすくなるので、体の不調や老化の進行が改善されるというわけだ。さらに、内臓に休む時間を与えられるため、内臓機能が高まって免疫力が上がる。血糖値が下がるので糖尿病の予防にもなり、余計な脂肪が分解されてダイエット効果も期待できるという。では、どうやって1日の中に16時間を組み込むのか。
「理想的なのは、下で紹介している『主婦におすすめ』パターン。午前10時と夕方18時に食事を取ったら、22時に就寝。寝る時間を何も食べない時間に充てればいいのです」
食事量や種類に制限はなく、菓子や酒を含めて何を食べてもよいという。また、毎日同じ時間帯に行う必要もない。
「16時間あけるのがつらい人はまず、12時間あけることから始めてみましょう。12時間経てば、前の食事で摂取したカロリーは使い切っているので、余分な脂肪が蓄えられません」
下のパターンはあくまで参考だ。食事や就寝時間はライフスタイルに合わせて調整し、無理なく始めてみよう。
主婦におすすめのやり方
夕食を早めに食べられる人におすすめなのがこのパターン。日の出とともに起きて、午前中に活動し、暗くなったら眠るという、体内に組み込まれたリズムに即しているため、体への負担が少なくアンチエイジング効果も高まる。
仕事をする人におすすめのやり方
9~17時で勤務をしている人、朝食を抜いても支障がないという人向き。昼食と夕食が適度な時間帯に取れるので、1日3食生活に慣れた人でも移行しやすい。また、夕食から就寝まで2時間あいているため、体への負担も比較的少ない。
夜間勤務の人におすすめのやり方
昼食を抜くパターンなので、朝食を抜きたくない人、残業などで夕食が遅めの人向き。朝食に、ご飯や麺、パンなど糖質の多い食事を取ると、昼の空腹感が強くなるので、朝は野菜と卵料理、肉、魚などのたんぱく質を多めに摂るのがおすすめ。
退職した人におすすめのやり方
起床時間が遅めで、日中も時間に縛られずに過ごせる、定年を迎えた人などにおすすめのパターン。9時に起床したら17時までの好きなタイミングで食べてかまわない。17時から翌9時までの好きな時間に就寝し、その間は食べなければいい。
空腹食事術 Q&Aでまるわかり!
Q1:お腹がすきすぎてイライラしてきたときの対処法は?
A:ナッツで空腹補充
「空腹の時間に耐えられなくなったら、ナッツ類を食べましょう。特に、味つけなしの素焼きのナッツなら、低糖質で塩分も少なく良質な脂肪やビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素も豊富です」
ナッツ類が苦手な人は、サラダやヨーグルト、チーズ、ゆで卵、豆腐といった高たんぱく質食材でもOK。水や茶はもちろん、コーヒー、ゼロカロリー飲料なども飲んでいい。
Q2:長時間の空腹によるデメリットは?運動も必要?
A:筋肉が減少する
「食後約12時間経つと、体脂肪と筋肉が同時に分解されてエネルギーに変わります。つまり、脂肪も落ちますが、筋肉も落ちてしまうのです。これが空腹食事術、唯一のデメリット。ですから、筋トレの必要はあります」
階段の上り下りやスクワット、腹筋、腕立て伏せをしたり、1日約8000歩、早歩きするのもおすすめだという。
Q3:ダイエット効果もある?
A:あります!
「ぼくの場合、半年で約7kg落ちましたし、50代の男性患者さんは約1年で中性脂肪が131mg/dlも減って、脂肪肝が改善されました。肥満と高血圧だった60代女性患者さんは約3か月で、収縮期血圧が135mmHgから121mmHgに下がり、体重も4kg減。ダイエット効果だけでなく、健康にも効果的なことがわかります」
Q4:毎日やらないと効果が出ないの?
A:月1回、週1回でもOK!
毎日行えば、毎日細胞がリセットされて、病気を寄せつけない健康な体に変わる。しかし、きつければ無理をする必要はない。
「16時間きっちりやらなければと思わず、1~2時間程度の誤差は気にする必要はありません。また、平日にできなければ週末だけ行っても効果はあります。”たまには細胞のデトックスを”と、月に1回だけやってみてもかまいません。無理せず長く続けることが大切なのです」
週末は「1日3食+間食」生活がやめられないという本誌・女性セブン記者も、平日の4日間だけ試しにチャレンジ。週末に食べすぎるので、翌日の月曜は、食べたいのをがまんするのがつらいが、ナッツとチーズと飲み物で意外としのげた。また、1回の食事で満腹になるまで食べておくと、お腹がすきづらくなることも発見。空腹食事術後の翌朝は確かに体が軽くなった気が…。4日で1kg減。続けていけば、もっとやせられそうと実感!
Q5:食べてすぐ寝ても問題ないの?
A: 体調や睡眠の質に支障がなければ大丈夫!
「ぼくも仕事や友人との飲み会で夕食が遅い場合、食べてすぐ寝ることがあります。内臓の負担を考えたら、就寝前の4時間程度は何も食べない方がいいのは確か。ですが、この食事術は、食べない時間を16時間作ることに意味があるので、睡眠の質や体調に支障がなければ問題ありません。なかなか寝つけない、翌朝の体調が優れない人は食後4時間あけて就寝するようにしましょう」
Q6:誰にでもできる?
A:持病がある、薬をのんでいる人は医師に相談を
「基本的には誰にでもできます。ただし、持病がある、薬をのんでいる人は、必ずかかりつけの医師に相談してから始めましょう。特に、毎食後の内服薬を処方されている人は、処方箋の指示通りの食事回数を取ってください」
「空腹食事術」で病気のリスクを減らす!
アメリカの医学界では、空腹と健康に関する研究が盛んに行われており、「空腹(断食)は、糖尿病やがん、アルツハイマー型認知症などの予防にも効果的」という論文も発表されている。そこでここでは、空腹がもたらすさまざまな恩恵をまとめた。
●糖尿病:40代から多発する「2型」なら空腹食事術で血糖値を下げられる
糖尿病には2種類ある。それは、インスリンが分泌されるβ細胞が壊れてインスリンが分泌されなくなる「1型」と、糖質の摂りすぎや運動不足により高血糖状態が続いてインスリンが効かなくなり、血糖値が下げられなくなる「2型」だ。
「40才以降に発症しやすい『2型』は、生活習慣が原因。空腹食事術なら糖質の摂取を抑えられるため、血糖値を下げるのに効果的です」
●脂肪肝:アルコールの摂りすぎというより糖質や脂質の摂りすぎが原因に…
日本人の4人に1人が発症している脂肪肝。以前は、アルコールの摂りすぎが原因といわれたが、近年、糖質や脂質の摂りすぎで脂肪肝を患う人が増えているという。
「特に、糖質の過剰摂取による脂肪肝は、進行すると『NASH(非アルコール性脂肪肝炎)』になるケースも少なくありません。そうなれば、肝硬変や肝臓がんになる可能性も。空腹食事術で糖質や脂質の摂りすぎを抑えれば、予防できます」
●高血圧:内臓脂肪を分解し血管細胞をよみがえらせて高血圧を予防
成人の場合、最高血圧が140mmHg、最低血圧が90mmHgを超えると高血圧とみなされる。原因は、塩分の摂りすぎによる血流量の増大や、肥満によって内臓脂肪から分泌される悪玉アディポサイトカインが高血圧をもたらすためだ。
「空腹の時間を作ると内臓脂肪が燃焼して減少するうえ、前出のオートファジー機能で血管の細胞がよみがえるので、高血圧症の予防に効果的なんです」
●がん:がんのリスクを高める肥満を解消し、活性酸素も抑制できる
日本癌学会によれば、肥満の人ほど一部のがんのリスクが高まることがわかった。そのため、ダイエット効果のある空腹食事術はがん予防にもおすすめといえる。さらにオートファジー機能は、がん細胞を発生させる活性酸素の働きを抑制してくれる。
「ただし、すでにがんが発症している場合、細胞を飢餓状態にすると、がん細胞が生き残りやすくなるので、この食事術はおすすめしません」
●アレルギー:腸を休ませて免疫力を上げればアレルギーも改善!
現在、日本人の2人に1人がなんらかのアレルギーを持っている。その原因は主に、免疫機能の暴走だ。腸内環境が悪化すると、免疫細胞機能が異常となり、アレルギー性疾患を発症する。
「食べすぎを控えれば、腸に長時間食べ物がとどまらないため、内臓を休ませられ、その機能を高められます。腸内には体内の約6割の免疫機能が凝縮されているため、腸が元気になれば体の免疫力も上がり、アレルギー改善につながります」
●認知症:糖尿病がアルツハイマー型認知症のリスクを2倍に高めていた
日本の認知症患者の6~7割がアルツハイマー型認知症で、原因は解明されていないものの、糖尿病が発症リスクを2倍に高めていることが九州大学の研究で明らかに。
「生活習慣病にかからないことが認知症の予防になるため、空腹食事術は認知症予防にも効果が期待できます」。ただし、すでに認知症を発症している場合、オートファジー機能が症状を悪化させる可能性があるので、この食事術はおすすめしない。
空腹のメリット!美と健康を保てる一石二鳥の食事術
空腹食事術を続けると、糖質の摂取量が減るため、糖の過剰摂取が原因による生活習慣病(糖尿病、脂肪肝、高血圧など、上記参照)を予防できるほか、アンチエイジングにも効果があるという。
「たんぱく質と糖が結合すると、たんぱく質が変性し、老化物質が生成されます。これを糖化と言います。つまり、体内に余分な糖がなければ老化も防げるのです」
また、空腹は成長ホルモンの分泌も促すという。これにより、代謝が高まり、脂肪の分解が促進される、コラーゲンが生成されるなどの効果が期待できるため、老化によるたるみやしわなどの肌トラブルの改善や疲労感の改善などに効果的だという。お腹がすいて鳴る音は、体の中が健康になっていくサインだと覚えておこう。
この人に聞きました:あおき内科 さいたま糖尿病クリニック院長・青木 厚さん
医学博士。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。ライザップの医療監修ほか、著書に『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)がある。
※女性セブン2019年6月13日号
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