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3年ぶり有観客ライブ目前のTUBE 歌を聴けば見えてくる「夏の景色の親近感」が別格な理由

聴けば、TUBEならではの夏うたの世界が広がる
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結成37周年。6月に発表した新曲『夏立ちぬ』で相変わらずの存在感を示したTUBE。夏休み明けの9月3日には、横浜スタジアムで3年ぶりとなる有観客ライブの開催が決まっています。多くのファンを虜にしてきたTUBEの「夏うた」にほとばしる魅力について、1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライター田中稲さんが綴ります。

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TUBEが奏でる夏の恋、「欲情と純情」の好バランス

夏休みど真ん中。40度近い気温と炎天下。太陽が嫌いになりそうである。しかし「そうはさせない!」と、夏の親衛隊長であるTUBEが、最近ゴキゲンな「夏休み計画表」を提出してきた。なになに、何を仕掛けてくるのか!

7月29日、『サマーシティ』『きっと どこかで』など配信未発表曲500曲をサブスクで解禁。さらに、9月3日に決まった3年ぶりの有観客横浜スタジアム公演の開催前日まで、過去ライブのセットリストのプレイリスト(毎週火曜・金曜。YouTube公式チャンネル)や「夏休み絵日記」が公開されている(毎日。Twitter公式アカウントにて)。ううむ、なんと心強い!

夏を愛し、夏を盛り上げてくれるアーティストは数多いるが、TUBEの親近感は別格だ。彼らの歌を聞くと、シャレオツな海とサーフボードだけでなく、海の家も見える。浮き輪も見える。ビーチサンダルまで見える!  泳げなくてもオッケーよ、とりあえずは浜辺に来い、夏祭りに来い、夏という季節に恋をするのが重要なのサ……。そう誘ってくれる気のいいあんちゃんが見えるのだ。

欲情と純情のバランスが理想的(写真は1993年、Ph/SHOGAKUKAN)
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歌詞とリズムからほとばしる「この夏はモテたいんだーッ!」「宿題? 知らん。夏は恋しかせん!」という素直でネアカな欲望。「夏の海で恋するオレと彼女最高」「夏の海でフラれる私エモい」という清々しいほどの陶酔感。

難しいことはとりあえず横に置き、ただただ夏と海に身をまかせ、心を溶かす──。そんなTUBEの曲を聴いていると、「最近の私、いろいろ難しく考え過ぎてたかな」と肩の力が抜けてくる。

TUBEが奏でる夏の恋はシンプルで気楽だが、不真面目ではない。ノリは軽いけれど一つ一つはそれなりに真剣。フラれたら「ありがとう、一生忘れられない夏のメモリーになったぜ……」とキレイに終わってくれる。なんというか、欲情と純情のバランスが理想的である。

一途だけど、溜め込み型ではなくちゃんと消費するキレの良さ。それを声量と包容力に溢れた歌唱力モンスター前田亘輝が歌うことで、一瞬の夏が最高に輝いて感じるのだ。

TUBEがいる限り、夏を嫌いになれない

「夏といえばTUBE」と言われるほど名曲は数多いが、なかでも「歌わねば! 踊らねば!」と心が前のめりになるのが『あー夏休み』。ああ我慢できない! 少し字数をお借りして、神イントロを歌わせてほしい。

♪パラララパラララパララララ…スカンカンカカンカンカカンカンカデッデッデッデッ・シャーッ!! くーっ、ありがとうございます。テンション上がる!

しかしこの曲、初めて聴いたときは本当にビックリした。『あー夏休み』(1990年)。サマーホリデーでもバケイションでもなく「夏休み」。しかも「OH」ではなく「あー」!

今となれば、ニッポンの夏イヤッホー、夜店でイカ焼きイェーイ、あの子の浴衣姿ギャー的な夏休みの開放感がこれほど想像できるタイトルはないと思う。が、当時はビックリした。カッコイイ横文字路線からなぜ急に!

前田亘輝の歌声は「一瞬の夏を輝かせる」(写真は2001年、Ph/KYODO NEWS)
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実はこの歌もカッコイイ横文字の予定だったようだ。過去に報じられた記事などによると、歌詞を担当した前田亘輝がつけたタイトルは「Oh! Summer Holiday」。しかしプロデューサー・長門大幸がOKを出さず、ヤケクソで「あー夏休み」にし、他の歌詞もそのタイトルに合わせて日本風にしたという。結果大ヒットするのだから、いやもうなんだか勉強になる話である。

彼らもしっくり来たのだろう。それ以後、TUBEの歌詞やタイトルに日本語や歌謡曲風カタカナが増え、風流感が増した。『ガラスのメモリーズ』『さよならイエスタデイ』は特に、昭和のムード歌謡フレイバーが色濃いが、それが良い! TUBEの演奏、歌、色気、そして盛り上げ力の唯一無二感をガツンと感じる名曲である。

スタイリッシュモードを外したことで逆に洗練されたというか、横文字のブランド品にこだわっていたのが、ある日オッサンの着る物と避けていた浴衣と甚平のラクチンさを知り、さらにそれが超似合ってモテモテになり、自己のアイデンティティを確立した感じといおうか!

前田亘輝
どれを歌ってもテンションが上がる(写真は1993年、Ph/SHOGAKUKAN)
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タイトルも良い意味で節操がなくなってきた。『だって夏じゃない』『夏を待ちきれなくて』『夏だね』『恋してムーチョ』『納涼(アルバム)』『花火』『B☆B☆Q』『いただきSummer』『夏立ちぬ』etc.。ダジャレ系、連想ゲーム系、イベント系、風物詩系と、夏の大喜利状態に! あらゆる角度から夏を推してくるTUBE。おかげでどれを歌ってもテンションが上がる。カラオケでTUBEを気持ち良さそうに歌っている人を何人見たことだろう。私も何度マラカスを振ったことだろう。

ここ数年、猛暑が激しくなり、太陽に腹が立つことが多くなってきていた。しかし今一度、夏の開放感、太陽の明るさをポジティブに受け止めたい。

ということで、今回のサブスク解禁はまさに助け船。ゴタゴタ書いてしまったが、やることは実にシンプル。TUBEのプレイリストの再生を押せばOKだ。すぐ「夏っていいよね……」と笑顔になることは分かっている。

私は夏も海も正直苦手だが、TUBEがいる限り大嫌いにはなれない気がする。好きになりたい、と思ってしまう。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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