
新たに子犬を迎えた家庭で、注意すべき病気やケガは何でしょうか。特にリスクの高い病気やケガ、その防ぎ方などについて、獣医師の山本昌彦さんに聞きました。
子犬が患いやすいストレス性の消化器疾患
改正動物愛護管理法では、出生後56日(8週)を経過しない犬や猫の販売を制限(原則禁止)していますが、ペットショップなどで人気なのは、やはり生後8週を経過したばかりの子犬や子猫です。犬で生後2~3か月といえば、人間でいえば3歳ぐらいに相当するのだとか。赤ちゃんではないものの、まだまだ幼い頃ですね。子犬を飼い始めた家庭では、健康面でどのような注意が必要なのでしょうか。
山本さんによれば、「子犬は環境の変化によるストレスで食欲不振に陥ったり、胃腸の調子が悪くなって下痢や嘔吐をしたり、それに伴って脱水症状を起こしたりすることがあります。」とのことです。
もともと飼っている犬が子供を産んだケースでなければ、子犬は事業者から購入したり知人から譲ってもらったりして飼い始めるので、最初に大きな環境変化を伴うことがほとんど。その際のストレスをなるべく軽減しないと、胃腸炎などを引き起こすこともありえるのだそうです。
安心できる場所を作ってストレス軽減
では、飼い主さんは子犬のストレスを軽減するために、どんなことができるでしょうか。

「まずは、家の中に子犬が安心できる場所を作ることです。サークルを設置して、その中に寝床やトイレを用意して、最初のうちはサークル内で過ごさせる。かわいい子犬が家に来たら、抱っこしたり一緒に遊んだりしたくなるものですが、あまりかまい過ぎないで、そっとしておきましょう」(山本さん・以下同)
先住ペットとの対面は急がない
他に犬や猫を飼っている場合は、その先住ペットと子犬の対面も決して急がないほうがいいそうです。
「最初のうちは生活エリアを分けておいて、数日してからフェンス越しに対面するとか、お互いにピリピリしなくなってから完全に空間を共有するとか、徐々に慣らしていくといいですね」
最初の1週間は飼い主さんが常に在宅を
また、それでも下痢や嘔吐といった症状が出た場合には、様子を見ることはせず、すぐに動物病院へ連れて行くべきだと山本さんは言います。
「成犬なら半日ご飯を食べなかったり、下痢をしたりしても、元気があって他に深刻な症状がなければいったん様子見で問題ないこともありますが、子犬は別です。体重が1kgにも満たない子犬の場合、ちょっとしたことでも体力をひどく消耗してしまうので、異変があればすぐ獣医師に見せるのが基本です」
飼い主さんによる“見守り”も重要
そのために、子犬を飼い始めた時期は、飼い主さんによる“見守り”も重要になります。

「子犬が環境になじむまでの数日から1週間が特に大切です。できれば、飼い主さん家族のうち誰か一人は常に家にいるようにしたいですね。例えば日中、みんなが外出している間に子犬に脱水症状などがあって、夕方や夜まで何もできないと、命にかかわります」
異物誤飲や転落のリスクをなるべく減らす
ストレス対策の他にも、飼い主さんが子犬の健康を守るために注意すべきことがあります。
「異物誤飲や転落といった事故も、子犬には起きやすいことなので、注意してなるべく防ぎましょう。子犬は好奇心が旺盛で、鼻先が届くところに何かあれば、すぐに口に入れてしまいます。毎年、1歳未満の子犬の7~8%が異物誤飲で病院にかかっています」
対策としては、やはり子犬の行動範囲に誤飲しそうなものを放置しないこと。ペットゲート、ペットフェンスといった可搬型の柵などを使って子犬の行動範囲を制限し、その中を完璧にキレイにしておく方法もあります。
子犬の転落は要注意
また、子犬の転落は、人間にとってはそれほど高くない場所からであっても大ケガをする可能性があるので要注意です。

「日本では人気犬種の上位は小型犬が占めていますよね。小型犬の子犬は前足や後ろ足の骨がとても細いので、人間の腰の高さから落ちても骨折することがあります。抱っこしていて落とすことがないように注意しましょう。抱っこするならなるべく飼い主さんが座った状態がいいですね。
また、子犬がソファの上で遊んでいて自分で転落して骨を折ることもあるので、子犬はある程度大きくなるまでソファやベッドに上がらせないほうが無難です。もちろん、大きくなっても関節への負担を考慮すると、自分でジャンプして登り降りするのは避けたほうがよいですね」
感染症予防のためのワクチン接種
子犬は抵抗力が弱いので、感染症の予防策も万全にしておく必要があります。
「ペットショップやブリーダーの元にいる間に、混合ワクチンの1回目を接種する子がほとんどなので、家に来てすぐでなくて構いませんが、1回目接種から3~4週空けて2回目、さらに3~4週空けて3回目を打って、十分な抗体をつけたいですね。その後は、1年に1回接種するという間隔が一般的です」
ワクチンの2回目、3回目接種が済むまで、お散歩デビューや先輩ペットとの対面を待つと、感染症予防の意味では理想的といえます。ただし、ワクチンが完了していなくても他の犬や外の環境に直接、触れないように気を付ければ、抱っこなどで外に出しても大丈夫です。抱っこしながら外の景色や匂いを感じさせてあげるのは、子犬の社会化にもおすすめです。
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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