「感動作」や「社会派」と安易には言えない
ここまで書いてきたように、本作は社会の深刻な問題を描いています。けれどもポスタービジュアルを見ると、「彼はなぜ42人を殺したのか」と「殺人犯VS検事 運命の激突――。」というコピーの主張が強く、性格破綻者と法の番人の闘いを描いたエンターテインメント作品だと誤解していたかたも少なくないのではないかと思います。
しかしいざフタを開けてみると、その中身は介護当事者の苦悩を描いた作品であり、やがては殺人犯と検事がそれぞれの立場を超えて個人的な感情を吐露し合います。そこで私たちは感情を揺さぶられ、感動する人だっているでしょう。
ですがこれを、「感動作」や「社会派」などと安易にカテゴライズしてしまっていいものか、とても悩みます。特定の言葉で括ってしまうことで、そこからこぼれ落ちてしまうものが絶対にあると思うのです。人の数だけ正義があるように、この作品の受け取り方も人それぞれに違うはず。現実と地続きのこの物語を、あなたはどのように受け止めますか?
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun