寒い季節になると、膝や腰など、体の節々が痛くなる人もいるのではないでしょうか。実はペットも事情は同じ。冬場は関節などの健康トラブルで動物病院にかかる犬が増えるのだそうです。今回は、犬の関節炎について、獣医師の山本昌彦さんに飼い主さんが気を付けるべきことを聞きました。
そもそも関節炎とは?生活の質が低下も
筋骨格系疾患(関節炎、椎間板ヘルニア、膝蓋骨脱臼)で動物病院を受診する犬の数は、冬場は夏場より1割ほど多いといいます。気温の低下で血行が悪くなると、関節を守る筋肉の働きも悪くなるので、関節痛を生じやすくなります。寒い時期になって、犬が足を引きずったり、散歩を嫌がったりすることが多くなってきた場合には、関節炎による可能性が考えられます。
山本さんによれば、「関節炎とは、なんらかの原因によって、関節の構造が壊れたり、関節を構成している関節軟骨や関節液に異常をきたしたりして、関節に炎症が起きる病気」だということです。
「骨と骨のつぎ目にある関節がうまく機能しないことで、骨の関節面や靭帯にも悪い影響を及ぼすことがあります」(山本さん・以下同)
歩き方で気付くことが多い
飼い主さんがこの病気に気づくきっかけとして多いのは、歩き方がおかしい、足が痛そうな様子だということ。
「痛いとまでいかなくても、膝関節などに違和感があると犬は無意識に関節をなるべく動かさないでおこうとして運動を嫌がるので、普段は活発な子が走らなかったり、散歩に行きたがらなかったりしますね」
直接、死に至る原因にはなりにくい病気ですが、愛犬に痛いところがあったり、そのせいで好きな散歩が楽しめなくなったりして生活の質が落ちるのは避けたいものです。また、運動不足で別の健康被害につながる可能性も見過ごせません。
関節炎の原因は外傷に遺伝、免疫疾患、肥満などさまざま
人間と同様、犬も中年齢以上で発症のリスクが増す関節炎。その原因はさまざまです。
「外部からダメージを受けて関節の構造が壊れることもありますし、感染症や免疫疾患など病気の一症状として関節炎が現れることもあります。免疫システムが自分自身の関節を攻撃してしまうことで起きる免疫介在性多発性関節炎などですね。また、先天的、遺伝的な要因で関節に他のトラブルを抱えている場合は炎症も起きやすいです。それから、肥満も関節炎のリスクを高めます。体重が重くなると、関節への負担も増します」
一説によれば、体重が2倍になると、関節への負担は2倍以上になるのだといいます。ちなみに、犬種によって関節炎の罹患リスクに差はあるのでしょうか。
「どの犬種でも関節炎になりえます。ただ、先天的に膝関節に問題があって、膝蓋骨(しつがいこつ)脱臼になったことがある子や、もともと股関節形成不全がある子はリスクが高いと考えて間違いありません」
膝蓋骨脱臼は小型犬が多い
膝蓋骨脱臼は、チワワやヨークシャーテリア、トイプードル、ポメラニアンなどの小型犬で比較的よく見られます。また、股関節形成不全はゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーなどの大型犬に比較的多いといいます。
「これらの犬種に限らず、生まれつき、膝関節が内か外かへはずれやすい子もいるので、健康診断などで獣医師から『この子はちょっと膝がゆるい』などと指摘された場合は、脱臼の他に関節炎もリスクが高いものと心得て、注意してあげてください」
自宅では段差と滑りやすさに対策を、サプリも有効
動物病院では、獣医師が関節の可動域を確かめたり、エックス線検査をしたりして関節炎を診断します。
「治療法は、鎮痛剤を使って痛みを抑えつつ、軟骨成分を注射やサプリメントの形で補う内科的治療が中心になります。痛みがひどい場合や、関節の機能が著しく損なわれている場合には、外科手術を行うこともあります」
予防は難しいのでリスクを減らす対策を
完全に根治するより、慢性化するケースが多いという関節炎。自宅では、どんな予防や治療が可能なのでしょうか。
「予防は難しいのですが、肥満も原因の一つなので、体重を適切に管理することで、リスクを減らすことはできます。年齢や体格に合った食事と、適度な運動が大切です。ただし、もともと関節が弱い子に激しい運動をさせてしまうと、それがきっかけで炎症を起こすかもしれないので、その子に合わせた運動強度を意識しましょう」