【グレープ「春の葡萄祭 2025」】ギターとハーモニーの重なりが心に沁みる…さだまさし&吉田政美が半世紀の熟成で得た「あの頃よりしっくりくる」嬉しさに、会場はふわりと包まれた

「一夜限り」の再結成のはずが……
楽しそうな二人を観ていると、人の縁が続くとは奇跡だなと思う。彼らは1976年に一度解散し、2022年、デュオ結成50周年記念日の11月3日、ライブを開催した。「一夜限りの再結成」のはずだった。
それが今も活動が続き、満席のフェスティバルホールで、鳴りやまないアンコールの声に包まれている。そして、「ぼくは細い声で、吉田は太い声なので、昔はハモリがきたなかった。でも、キレイになってきたよね。あの頃より二人ともうまくなった」と嬉しそうに語っている。
昔、思い描いた未来より、少しでもいい感じの今があるなら、それはなんて素敵なのだろう。そう冒頭で書いたが、さださんは、二人のハーモニーが、時を経て、年を重ねて合うようになった感動を「なつかしい未来」と言った。50年目のソロコンサートツアータイトルに使われたこの言葉は、グレープがきっかけだったのだ。
半世紀の熟成で、二人が得た「あの頃よりしっくりくる」嬉しさは、フェスティバルホールをふわりと包み、ひとつにしていた。
時間が足りない。時間が延びてもいいよ、と、客席からかけ声が飛んでいた。
大満足の収穫だった葡萄祭。
しかも、5月14日には、さだまさしのソロとして45作目、グレープを合わせると50作目となるニューアルバム『生命の樹〜Tree Of Life〜』が発売される。プロデューサーは最強の相棒、吉田政美。グレープ名義の曲も3曲収録されている。
次の葡萄祭がもう楽しみ。グレープのなつかしい未来は、はじまったばかりだ。
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。近著『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka