【グレープ「春の葡萄祭 2025」】ギターとハーモニーの重なりが心に沁みる…さだまさし&吉田政美が半世紀の熟成で得た「あの頃よりしっくりくる」嬉しさに、会場はふわりと包まれた

必ず何かが起こるフェスティバルホール
そんな二人だが、「フェスティバルホールは何が起こるか分からない」と身構える。大阪ならではの、いろいろなご苦労や面白事件があったようだ。さださんの「まっさん」というあだ名がついたのは、フェスティバルホールだったとか。「マッチ」と呼んでと頼んだのに「まっさん」と呼びかけられてしまい、それが拡散。今に至るという。
そして今回も、しっかりとサプライズが起きた。4月10日がさださんの誕生日ということで、1日前倒しで誕生日ケーキが登場! 吉田さんはハッピーバースデーを歌うのを観客に任せ、静かに年の数だけの薔薇を、さださんに手渡した。
な、なんだか「何も言わずとも通じる」感がエモい……! 薔薇がすごく意味ありげに思える吉田さんのサプライズであった。

グレープが思い出させる“あの頃のわすれもの”
グレープはアルバムを5枚出している。デビューから解散までに『わすれもの』『せせらぎ』『コミュニケーション』の3枚、解散15年目の1991年にレーズンとして再結成しリリースした『あの頃について〜シーズン・オブ・レーズン〜』。そしてデビュー50周年の2023年にグレープ再起動としてリリースした『グレープセンセーション』。
今回、すべてのアルバムから選曲されていたが、確かに、彼らの歌を聴いていると、自分の“あの頃のわすれもの”を思い出して仕方がなかった。果たせなかった約束、逃したチャンス。余裕がなくて、見逃していた風景。当たり前だと思っていた愛しい会話。大切な人との別れ、告白すらできず終わった片思いも。
グレープの歌は「もう出会えない人や、戻ってこない時間に送る、返事を待たない手紙」感がある。そして、不思議とそれが心地いいのだ。やわらかく繊細なギターとハーモニーの重なりがジュワリと心に沁みる。すると、過去の一つ一つが、愛しいもののように思い出される。
グレープを聴く、というのは、「思いのこし」を味わうことなのかもしれない。
「見送ること、忘れないこと。それが、残されたものの仕事だからね」とさださんは言う。
「たくさん恥をかいてきた。恥くらべだな」と吉田さんと笑い合う。
何かを笑って思い出せるようになるのは、なんて温かなのだろう。