
さすがにスマホを使いすぎなので、しばらくの間手放そうと決意したはずが、気がついたらいつの間にかまた、スマホの画面を凝視している──過度なスマホの使用は目や脳などに様々な影響を及ぼすが、弊害は健康被害だけではない。本当に恐ろしいのは、「スマホの怖さをわかっているけど、やめられない」という「スマホ依存」に陥ることだ。アルコールやギャンブルなどの依存症を専門とする久里浜医療センター名誉院長の樋口進さんは、スマホ依存はもともとゲームの分野で起こったと語る。
「10年ほど前から、ゲーム機で遊んでいて依存症になった子供たちが、スマホのゲームにとりつかれるようになりました。特に目立ったのは、ゲーム機ではプレー時間が守れていたのに、スマホになると急に守れなくなるケースです」
なぜスマホに依存してしまい、コントロールがきかなくなるのか。樋口さんは「スマホに強く依存する最大の要因は“いつでもどこでも使える”ことです」と言う。
「テレビやゲーム機を持ち運ぶのは難しいですが、スマホなら漫画でもゲームでも、いつでもどこでも自分の好きなタイミングでアクセスできます。加えて、テレビは決まった時間帯に番組が流れるけど、スマホはYouTubeなどで、自分で選んで見ることができます。制約が少なく、見る、見ないの判断が個人の裁量に委ねられているゆえ、自分を律することができないとどこまでも深くハマってしまう。だからスマホは危ないんです。
本を読むなら電子書籍ではなく紙で、映像を視聴するならスマホの動画サービスではなくテレビで。スマホでなくともできることは意識的に“スマホじゃない方”を選ぶといい」(樋口さん・以下同)

スマホへの強い依存は、使い始める時期が早ければ早いほど重症化する。
「いまは、0才児からスマホを使い始めるケースも珍しくありません。先日外来に来た子供は7才でしたが、4才から使い始めて、スマホを取り上げられると大暴れしていました。臨床現場ではこうしたケースが多々あり、スマホを使い始めるのは遅ければ遅いほどいいのは議論の余地がない」
もちろん子供だけでなく、大人にもスマホ依存が生じる。スマホ依存のメカニズムを脳の構造から説明するのは、おくむらメモリークリニック理事長の奥村歩さんだ。
「スマホを通じて新しい情報に接すると脳内物質のドーパミンが放出され、快感を得ることができます。ドーパミンはおいしいものを食べたり仕事で給料をもらったりという人間の特定の行動に対し、その報酬として“気持ちよさ”を与えて、人間はそれを味わい続けたいから特定の行動を繰り返します。ただしそれが行きすぎると、スマホを使わないとドーパミンが出ないような体質になり、やめたくてもやめられない依存症へとつながります」
依存状態に陥ると、スマホがないと不安になったり、何も通知がないのに音が鳴ったような気になったりする。かように強い依存性を持つスマホは、医療現場では酒やたばこ、薬物などと同じように依存症を引き起こす「危険な依存性物質」と認定されている。
「依存性物質には、『気持ちよさをもたらす』『飽きない』『無限性』『確実・手軽』『一見すると安全』という5つの共通点があります。スマホは危険性が知られるアルコールや薬物などとは異なり、安全で便利なデバイス(機器)と見られているため利用のハードルが低く、“依存性物質”としての危険性が知られていません。だからこそ使い方に気をつける必要があるのです」(奥村さん・以下同)