
体内の免疫細胞の約7割が集まる「腸」の環境を整えることは、健康や寿命に直結する。そのために役立つのが善玉菌だが、特に美容にもいい影響を与えるのが、通称「美腸菌」だ。一体どんな種類があり、どうやって増やしたらいいのか―日差しや汗で肌を痛めやすい夏こそ、体の中からきれいを目指しませんか?
便秘こそ汚肌・口臭・肥満の原因!
「腸の状態が悪く、慢性的な便秘に悩んでいる人に美肌の持ち主はいません。腸内環境を整えることは、健康はもちろん、美容をも左右します」
とは、内科医の石原新菜さんだ(「」内、以下同)。
体内の老廃物のおよそ7割は腸を通じ、便から排出される。腸の働きが悪いと体内に老廃物が残って便秘となり、排出されない老廃物の一部が、健康や美容に悪影響を及ぼす。
「体内に残った老廃物の毒素は、腸の粘膜から血中に入り込み、全身を巡ります。すると、血管が炎症を起こし、動脈硬化などの原因に。
一方、皮膚から出ようとする毒素は吹き出物を発生させ、汗腺や口から体臭や口臭として排出される場合は、悪臭になります」
便が出ず、老廃物がたまった状態は体内の巡りを阻害するため、新陳代謝も悪くなる。するとやせにくくなり、肥満にもつながる。
「毎日状態のいい便が出ているかどうかが、腸内環境の状態を知る目安となります。いい便とは、ある程度の太さがあり、あまりにおわないもの。便秘とまではいかなくても、色が濃く、刺激臭が強い便が出るときも、腸内環境が乱れている可能性が高いでしょう」
腸内にすむ菌とえさになる菌の両方が必要
腸内環境がいいかどうかは、腸内にすむ細菌のバランスで決まる。
腸内に細菌は100兆個以上おり、重さにすると約2㎏にもなる。その種類は1000以上あり、主にビフィズス菌、乳酸菌などの「善玉菌」、大腸菌、ウェルシュ菌などの「悪玉菌」、腸内環境によって、善玉菌のようにも、悪玉菌のようにも働く「日和見菌」の3種類に大別される。
「善玉菌が多ければいいというわけではありません。腸内環境にとって理想的なバランスは、善玉菌が1~2割、悪玉菌が1割、日和見菌が7割とされています。菌種に多様性があった方が、強い腸をつくれます」
とはいえ、善玉菌を減らすのは腸内環境によくない。
「そもそも善玉菌には、腸内にすみついているものと、外からやってきて腸内にとどまらず、流れていってしまうものがあります」
腸内に生息する善玉菌としてよく知られるのが、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌の3種。特に日本人の大腸にはビフィズス菌が多い。
そのほかの善玉菌には、天然酵母のパンやビールなどに含まれる酵母菌、納豆の発酵に必要な納豆菌、にごり酢に含まれる酢酸菌などがあるが、これらは腸内にほとんど存在しない。善玉菌の“えさ”になることで、健康的な腸“美腸”づくりに貢献する。美腸をつくるのに重要な役割を果たすこれらの善玉菌がいわゆる「美腸菌」だ。

「腸に生息する善玉菌だけ摂ることを『プロバイオティクス』、善玉菌のえさとなる菌だけ摂ることを『プレバイオティクス』と呼びます。善玉菌を増やして美腸をつくるには、これらを個々で摂るのではなく、同時に摂取することが大切で、これを『シンバイオティクス』といいます」
善玉菌を含む食材を1種だけ大量に摂れば、菌が増えるわけではないのだ。

1週間で腸内環境は変わる
「多様な善玉菌を摂るには、1日の食事でいかに、ビタミン、ミネラル、良質な脂質、たんぱく質、食物繊維などの栄養素をバランスよく摂取するかが大切です」
とは、管理栄養士の木下あおいさんだ(「」内、以下同)。善玉菌を含む乳酸菌や発酵食品だけ摂ればいいわけではないという。
「特に意識してほしいのは食物繊維。便をやわらかくして排出しやすくする水溶性、腸のぜん動運動を促す不溶性、善玉菌を増やす手助けをする発酵性の3種の食物繊維をバランスよく摂ることが大切です」
腸内で食物繊維と同じように働く「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」もおすすめだ。
「レジスタントスターチはいも類や穀物類に多く含まれ、最後まで消化されずに大腸の奥まで届き、便の排出を助けてくれます」

こうした食事を続ければ、早い人では1週間、平均でも約2か月で美腸に近づけるという。多様な食材をバランスよく摂れるよう、おすすめの食材とレシピを次から紹介する。
食物繊維をたくさん摂ろう!善玉菌が生成する短鎖脂肪酸に注目
腸内環境を改善するうえで、最近注目されているのが、大腸でつくられる有機酸「短鎖脂肪酸」だ。「これは、酪酸菌や酢酸菌、ビフィズス菌などの善玉菌が、食物繊維を発酵・分解することで生成されます。食物繊維が豊富な根菜や豆類、オリゴ糖、レジスタントスターチが豊富ないも類や穀物などを摂ることで増やせます」(石原さん)
短鎖脂肪酸には、脂肪の蓄積を防ぐ、過剰な食欲を抑える、脂質代謝を整える、免疫機能の調整、アレルギーや肥満の予防、血糖値や便通の改善など、さまざまな働きがある。意識して摂りたい。
管理栄養士・木下さんが考案!美腸菌&美肌を育てる食材&レシピ
ここからは管理栄養士・木下さんが考案する、美腸菌&美肌を育てる食材&レシピを紹介する。下記レシピの材料は2人分。
美腸をつくるには、多様な食物繊維を摂ることが大切なのは前述の通り。
「旬の食材、海藻類、魚などから良質な脂質を摂ることも大切。揚げ物などの酸化した油や糖分はなるべく避けましょう」(木下さん)。

「美肌野菜のさっぱり和え」レシピ
《POINT》
和えるだけ、5分でできるので簡単。食物繊維と発酵調味料を一緒に食べられる。
《作り方》

【1】ボイルたこ100g、赤パプリカと黄パプリカそれぞれ50gを一口大に切る。オクラ2本は小口切りに。ミニトマト4個は半分に切る。大葉1枚はせん切りに。
【2】ボウルにしょうゆ小さじ2、亜麻仁油大さじ1、黒酢小さじ2を入れて混ぜる。
【3】【2】のボウルに【1】を加えて和える。
「アボカドの濃厚和え」レシピ
《POINT》
肌のうるおいを守り、乾燥を防ぐ効果が期待できる。火を使わずに作れるのも魅力。
《作り方》

【1】玉ねぎ1/8個をスライスし、塩でもむ。
【2】アボカド1個を一口サイズに切る。マッシュルーム4個は薄くスライス。モロヘイヤ2株は食べやすい大きさに葉をちぎる。
【3】ボウルに白みそ小さじ2、しょうゆ小さじ1、オリーブオイル大さじ1を入れて混ぜる。
【4】【3】のボウルに【1】と【2】、ちぎったのり1枚分を入れて和える。
「疲労回復スタミナスープ」レシピ
《POINT》
腸の健康にいいだけでなく、不足しがちなたんぱく質が補えるので夏バテにもおすすめ。
《作り方》

【1】鍋に酒と水各大さじ2、ほぐしたまいたけ50g、いちょう切りにしたにんじん80g、豆もやし50g、すりおろしたしょうが1かけ、塩ひとつまみを入れ、しんなりするまで弱火で蒸し煮する。
【2】水400cc、乾燥昆布5gを【1】に加え、昆布が戻ったら豚肉150gを加えて弱火にかけ、煮立つ直前に昆布を取り出す。
【3 】【2】にみそ大さじ1と1/2を溶き、約1分弱火にかける。
「ビタミンA美肌スープ」レシピ
《POINT》
肌の健康、粘膜強化に欠かせないビタミンAがたっぷり。多めに作って冷やして食べてもおいしい。
《作り方》

【1】水200㏄に昆布を入れ、だしをとる。
【2】にんじん100gと玉ねぎ1個は薄切り、トマト1個とセロリ50gはさいの目切りに。
【3】鍋に水大さじ2と【2】を入れ、塩ひとつまみをふり、やわらかくなるまで弱火で蒸し煮。こげつきそうになったら水少々を鍋肌から加える。
【4】ミキサーに【1】と【3】、白みそ大さじ1を入れて攪拌。
《肌の常在菌にも注目》肌表面に生息しうるおいを守ってくれる!「美肌菌」を守る習慣3
美肌づくりには腸内の善玉菌(美腸菌)が欠かせないが、肌そのものが持つ「美肌菌」にも、美肌を保つ働きがあるという。これは一体何か――。
「人の肌には数百億個の常在菌がすみついています。中には肌荒れやニキビの原因菌もいますが、肌のうるおいを守ってくれる菌、いわゆる美肌菌も数多く存在します」(石原さん)
代表的な美肌菌に、表皮ブドウ球菌やアクネ桿菌などがある。いずれも、外部から何かを加えて増やすことはできないので、いまある菌を減らさず守る工夫が必要だ。
【美肌菌を減らさない習慣】
・朝はぬるま湯での洗顔だけでOK。洗いすぎない。洗顔料の使用も控えめに。
・タオルは化繊でなく天然の綿や絹を選び、ごしごしと肌を拭かない。水気はやさしく押さえて取る。
・老廃物は汗とともに排出される。顔にうっすら汗をかくくらいの運動や入浴を毎日の習慣に。
◆内科医・イシハラクリニック副院長・石原新菜さん
日本内科学会会員、日本東洋医学会会員、日本温泉気候物理医学会会員。漢方医学、食事療法をもとにした診療を行う。『眠れなくなるほど面白い 図解 冷えと乾燥の話』(日本文芸社)など著書多数。
◆管理栄養士・インナービューティープランナー・木下あおいさん
一般社団法人「日本インナービューティーダイエット協会」理事長。健康的な食事を楽しみつつ、体の中から美しくなる独自のダイエット法を提唱。新著『体の中から整えてやせる&美肌になる 美腸栄養スープ 一生もののレシピ60』(KADOKAWA)が7月23日に発売予定。
取材・文/植木淳子
※女性セブン2025年7月24日号