犬は人間よりも体温調節が苦手な動物です。特に暑さには弱く、熱中症で動物病院を受診する犬はゴールデンウィーク頃から増えるのだとか。そこで今の時期こそしっかり知っておきたい熱中症対策を、獣医師の山本昌彦さんに詳しく聞きました。
真夏だけじゃない、犬の熱中症
熱中症とは高温多湿の気候に体が対応しきれず、めまいや立ちくらみ、ほてり、体のだるさ、吐き気、けいれん、失神などの症状を引き起こす病気です。私たち人間の感覚では、熱中症のピークといえば7月下旬から8月上旬ですが、犬の場合は人間以上に、早い時期から警戒する必要があります。
山本さんによれば「犬は人間に比べて体温調節が上手にできない動物です。人間の汗腺は全身に分布していますが、犬の場合は体温調整に関わる汗腺(エックリン腺)があるのはほぼ肉球だけ。しかも、汗腺の機能は高くなく、体を冷やしたいときもあまり多くの汗をかけません」とのこと。
確かに、真夏でも犬の体から汗がしたたり落ちるような姿は見かけません。汗をかきにくい分、犬は呼吸で放熱します。
5月に4月の2倍に増加
「舌を出してハアハアと息を吐く『パンティング』という呼吸法を使います。舌の表面から唾液を蒸発させて、気化熱を周りから奪うことで体を冷やす仕組みですが、放熱できる量は限定的です。また、湿度が高いと唾液が蒸発しづらいので、パンティングの効果も小さくなります」(山本さん、以下同)
そういうわけで、犬の熱中症患者(患畜)は毎年、ゴールデンウィーク頃から増える傾向にあるのだそうです。アニコム損保の調べによると、5月に4月の3倍、6月に5月の2倍になるというデータがあります。(https://www.anicom-sompo.co.jp/news-release/2022/20220428/)
「私が診た例では、連休に家族で出かけて帰ってくると、室内でピレネー(グレート・ピレニーズ)がぐったりしていたということで、来院したケースがありました。来院時体温は40℃を超えていて、全身状態も悪く熱中症との診断をしたということがありました(その子は最終的には亡くなってしまいました)。室温の管理も大切なことですが、湿度の管理や清潔な飲み水の確保、直射日光が当たらない環境づくりなども大切です」
寒冷地が原産の犬、鼻が短い犬は要注意
特に、熱中症にかかりやすい犬種などはあるのでしょうか。
肥満傾向の犬や基礎疾患がある高齢犬も
「熱中症のリスクが高いのは、やはり寒冷地が原産の犬種。ピレネーもそうですし、バーニーズマウンテンドッグ、シベリアンハスキー、サモエド、秋田犬、アラスカンマラミュートなども当てはまります。やはり厚いアンダーコートがある分、体温が下がりにくいのだと考えられます。
それから、フレンチブルドッグやパグ、シーズーなど、マズルが短い短頭種も熱中症にかかりやすいですね。鼻の孔が狭かったりして、もともと呼吸の状態が他の犬種とは異なりますし、口腔内の面積が狭い分、唾液が蒸発しにくいです」
犬種の他に、肥満傾向の犬も、皮下脂肪が厚い分、体内の熱を逃がしにくいといいます。高齢の犬、心臓疾患など基礎疾患がある犬も特に注意が必要です。
「人間が感じている以上に、犬には暑さがこたえます。夏場に車内に犬を残して買い物をするといった行動は絶対に避けてください。犬種や疾患のリスクがなくても、どのような犬でも状況によっては、熱中症になる可能性があることは忘れないでください」