施設に顔を出すと睨むだけで一言も話さない
「施設の人に聞くと父親は私の話ばかりするそうで、顔を出すと『次、いつ来ますか』と予約を入れさせられる。家族も介護にかかわることが求められるちゃんとした施設だった。重たい足をひきずって顔を出すと父親は黙って睨むだけで一言も話さない。それがつらくて病室に見舞っても、顔を見ないで看護師さんとだけ話して帰ったり、最後は病室にも行かずに事務所で手続きだけして逃げるように帰ってきた」
A子さんは言う。
「父親が亡くなってしばらくは、認知症で最後は私のこともわからなかったんじゃないか。それなら会っても仕方がなかったと自分に言い聞かせていたけどね。そんなことはないのかなとも思う。父親は思う通りにいかない老後に腹をたてて、私を憎んでたんだと思う」
先に施設に入った母親が亡くなったのは父親の死からちょうど1年後。命日は二日違いだった。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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