
連日の猛暑により、夜間の寝苦しさを感じている人も多いのではないでしょうか。そのようなときには、よい睡眠につながる食材を取り入れたり、漢方薬で対処したりするのも1つの方法だと、薬膳にも詳しい薬剤師の山形由佳梨さんは言います。そこで、夏の眠りを快適にする食材と漢方薬について教えてもらいました。
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夏の夜の寝苦しさを改善するには深部体温がカギ
暑い夏の夜は、なぜぐっすりと眠れないのでしょうか。寝つきが悪く熟睡できないと、なんとなくだるかったり、少し頭が痛かったりという、不調につながることもあるので、思い当たることがないか確認してみましょう。
夏は深部体温が下がりにくい
人間には、1日のなかで体温変化のサイクルがあります。日中の活動時間帯は、体の中心部分の体温=深部体温が上がり、睡眠前は眠る準備をするために深部体温が下がります。

夏は湯船に浸からずシャワーだけで済ませる人も多いでしょう。湯船に入ると深部まで体が温まりますが、シャワーだけだと深部の体温が上がりづらいため、深部の体温が上がって下がるリズムが刻みづらくなり、体温サイクルが乱れやすくなるため、よい睡眠を取れないことがあります。
室温を下げすぎるのは逆効果
クーラーをつけっぱなしにして寝たら、次の日体がだるかった、という経験をしたかたもいらっしゃると思います。睡眠中は深部体温が下がるため、体が冷えやすくなっています。もし睡眠中に汗をかいていれば、クーラーの影響で汗が蒸発して、ますます体温が下がってしまうのです。

さらに、暑いからといって室温を下げすぎると、クーラーの冷気でさらに体温が下がります。温度差が大きい外と室内を行き来すると自律神経のバランスが崩れ、だるさや頭痛、肩こりなどを感じやすくなります。
しかし、連日の酷暑のなか、暑さを回避し続けることはできません。また、深部体温に合わせたクーラーの調整は至難の業です。
夏の睡眠の質を高めるのにおすすめの食材
そこで、体温サイクルが少しでも整うように、食事の工夫で体の内側から働きかけましょう。睡眠の質を高めるために選びたい食材やメニューを紹介します。
トリプトファンを多く含む「カツオ」

まずは、眠りの鍵をにぎる、ホルモンの素になるアミノ酸を摂りましょう。それに適した食材が、8~9月に旬をむかえるカツオです。夏は、スーパーなどでカツオのたたきや刺身がよく並んでいるので手軽に取り入れることができるでしょう。
カツオに多く含まれる、必須アミノ酸の1つ「トリプトファン」は体内で幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」に変化します。夜になるとそれが、睡眠に必要な「メラトニン」へと変わります。つまり、意識的にトリプトファンを摂り、体内のメラトニンを増やすことが快眠につながります。
体から熱を排出する夏野菜

カリウムを多く含む夏野菜は利尿作用が強く、尿とともに余分な熱を排出します。それにより、深部体温を下げる働きが期待できます。トマトやきゅうり、なすや枝豆、ゴーヤ、とうもろこしなどが、カリウムをたくさん含む野菜です。
辛い料理やスパイスメニュー

辛口カレーやスパイスをふんだんに使ったエスニック料理といった、体が熱くなるようなメニューを夕食に食べるのもおすすめです。深部体温が一度上がったあと、元に戻ることで、眠りにつきやすくなることが期待できます。
夏の寝苦しさには漢方によるケアもおすすめ
夏の睡眠改善には漢方薬をのむのも選択肢の1つです。漢方医学は、免疫力を上げたり、自律神経を整えることで、全体のバランスを整えることを目的とします。症状の改善だけを目的とせず、不調の原因を解消することを目指すので、内側からの健康が期待できます。また、漢方薬は医療現場でも使われていて、自然由来なので副作用も一般的に少ないとされています。
睡眠の質を高めるには睡眠作用、鎮静作用、抗ストレス作用などの薬効がある生薬を含む漢方薬から選びます。また、自律神経を整えて、眠りが深くなるように促すものもあります。

夏の睡眠にお悩みの方におすすめの漢方薬
・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
体力がなく、神経がたかぶる方に用いられます。気持ちを安定させることで、不眠を改善します。
・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
比較的体力がある方に用いられます。のぼせやイライラを改善して、眠りやすくします。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は繰り返す不調に対して、根本からの改善が期待できる薬です。そのため、食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。

暑い夏は誰しもが、多かれ少なかれ寝苦しくなるもの。しっかりとした睡眠がとれずに体調を崩してしまわぬよう、内側からの対策も試してみましょう。
◆教えてくれたのは:薬剤師・山形由佳梨さん

やまがたゆかり。薬剤師。薬膳アドバイザー。フードコーディネーター。病院薬剤師として糖尿病患者の服薬指導中に食養生に着目。牛角・吉野家、薬膳レストランなど15社以上のメニュー開発を行う。現在は「健康は食事から」をモットーに、漢方のプロとAIが適した漢方薬をお手頃価格で自宅に郵送してくれる「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも情報発信をしている。