「健康」の次は「年寄り優先」
で、66歳になった私はどうか。貯金通帳を見ると「仕事優先」の4文字はものすごく重い現実なんだけど、実際はそうもいかないのよ。最初にくるのは、「健康優先」。これは大病の後だし仕方がないとする。けれど、その次は何かというと「年寄り優先」よ。
いま気になっている年寄りがふたりいて、ひとりは亡くなった母親の妹である89歳の叔母なの。叔母はこの冬から判断力が怪しくなったんだけど、私が「つじつまが合わないじゃないの」と指摘すると、「うそよっ」が始まるのは昨日今日始まったことじゃない。どんなことを言っても私を言い負かしたいんだね。で、それがかなわないとなると、「はいはい、そうですか。じゃあ、そういうことにしましょう」とごまかされる。
実の妹の性分を知っている母親は、私が怒ると、「相手にすんな。そんなにイヤなら行かなきゃいいべな」と、柳に風よ。その母親を私が帰省して介護したら叔母は「あんたはたいそうなことをしているつもりだろうけど、親の介護は娘なら当たり前だよ」とこう言ったのよ。自分は97歳まで生きた祖父の介護なんかしなかったくせに、まあ、よくも、よくも!
あ、失礼!! 叔母の話をすると激怒ワードが次から次に思い出してしまい、つい取り乱してしまうんだわ(笑い)。
紙のように薄い体になっていた叔母
その叔母が、先日、家を訪ねたら紙のような薄い体になって、寝ているの。そして「おや、ヒロコが来ましたか」と、今まで見たことのないおだやかな顔で言いながら体を起こしたの。かと思えば、「昨日、自転車で中野までお買い物に行ったらね」と絶対にありえないことを言い出すし。
私が叔母と最後にやり合ったのは1月末。その怒りはまだ私の中に残っている。なのに薄い体を見たら、叔母と同じくらいおだやかな気持ちになっているのはどうしたことか。「ったく、毒を吐くだけ吐いてずるいよなぁ」と小声で言ったけれど、聞こえたのかしら。
もうひとりの年寄りは、91歳の最年長のボーイフレンドのO氏。今年になって5回入退院を繰り返している。その彼から先日、「昼飯食わない?」と電話がかかってきたら、うれしくってね。飛んでいっちゃった。私にとって彼はどれだけ会ってもまだまだ話足りない人。少しでも長く会いたい人だ。
そんなわけで、「年寄り優先」で、「ちょっと来ない」と言われたら仕事を早く片付けて会いに行く。片付かなかったら先に顔を見にいく。彼らのため、というより自分の近い未来のためになることがありそうだもの。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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