健康・医療

《医師が解説》夏の「胃バテ」の原因は?積極的にとりたい夏野菜や冷えを防ぐ食べ物

お腹を押さえる女性
夏に起こしやすい胃バテの対策法を医師が解説
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日ごとに暑さが増すこの季節は、胃もたれや胸やけ、食欲不振などいわゆる「胃バテ」の症状に悩まされる人が増える。胃の不調への対策として、食事内容や生活習慣の見直し、漢方薬をとり入れるなどの方法があると話す医師の木村眞樹子さんに話を聞いた。

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胃バテの原因

夏に起こる胃バテのおもな原因は、冷たい飲食物の摂り過ぎと自律神経の乱れです。

冷たいものの食べ過ぎ

冷たい飲食物を食べ過ぎると胃が冷えて、消化不良や胃もたれ、食欲不振など胃バテの症状が出やすくなります。胃の中の温度は通常、体温とほぼ同じ37〜38度程度ですが、体温よりも低い温度のものを摂ると一時的に温度が下がり、胃の働きが悪くなるのです(日本栄養・食糧学会誌第64巻第1号,脇坂しおり他「摂取する水の温度と量がヒトの胃運動に及ぼす影響」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/64/1/64_1_19/_pdf)。

並んだアイスキャンディー
体温よりも低い温度のものを食べると胃が冷えてしまう
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ストレスによる自律神経の乱れ

高温多湿な気候や暑くて寝苦しいことによる睡眠不足、冷房による冷えなどで体にストレスがかかると、自律神経のバランスが崩れやすくなります。自律神経は体温調節や胃腸の蠕動運動などに関わっているため、自律神経が乱れると胃の働きも悪くなるのです。食べたものがスムーズに消化されなくなり、食欲不振や吐き気、腹痛などが起こります。

漢方医学では湿気による影響が原因と考える

漢方医学では、胃バテには湿気が関わっていると考えます。胃腸など食べ物の消化吸収の働きを司る「脾(ひ)」は湿気による影響を受けやすいため、湿度の高い夏は脾が弱まって食欲不振や消化不良などのトラブルが起こりやすくなるのです。

また、脾は水分代謝にも関わっているため、脾が衰えると水分の排出が乱れて体内に余分な水分がたまりやすくなります。その結果として体が冷えやすくなり、胃バテの悪化につながります。

気温・湿度計
湿度の高い夏は胃腸のトラブルが起こりやすい
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胃バテの解消法

元気な胃を保つには、生活習慣や食事面での工夫が大切です。ここからは、胃バテの解消法を解説します。

生活習慣を見直す

食事や就寝・起床などの時間をほぼ一定にして生活リズムを整えると、自律神経が整いやすくなります。

夏の入浴をシャワーだけで済ませている人は、可能であれば37~39度くらいのぬるめの湯船にゆっくり浸かるようにしましょう。湯船につかると血管が拡張されて血流がよくなるとともに、副交感神経が優位になることで自律神経の乱れを解消する効果が期待できます。

食事面では胃に負担がかかるアルコールや油分の多いもの、胃の温度を急激に下げるアイスや氷の入った飲み物などはなるべく避けましょう。さらに、常温や温かい料理を食べるようにするか、冷たい料理を食べたいときには温かい飲み物を用意するといった工夫をすると、胃腸の負担を和らげることができます。

冷やし中華とちくわのスープ
冷たい物は温かいものと一緒に食べるなどの工夫を
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夏野菜を積極的に食べる

漢方医学における脾の働きを改善するには、体内にたまった余分な水分や老廃物を排出し、水分の巡りを整えることが大切です。

トマトやキュウリ、ピーマン、オクラ、ナスなどの夏野菜に多く含まれるカリウムには利尿作用があり、体内にたまった余分な水分や老廃物を尿として排出しやすくします。

また、水分の巡りを整えるには水分補給が必要ですが、脾が弱った状態で一度にたくさんの水分を取り込むとうまく循環や排泄ができません。飲み物を少量ずつこまめに摂取したり、食べ物から水分を補ったりすることで、過不足のない水分補給ができ、水分の巡りを整えることにつながります。

夏野菜のグリル
水分、ビタミン、ミネラルを摂るのにおすすめの夏野菜
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夏野菜は水分と胃の粘膜を修復、保護し、胃腸の健康を維持する働きがあるビタミンを豊富に含んでいるため、脾の負担を軽減しつつ必要な水分を補うことができます。生で食べられるものが多いため、熱に弱いビタミンも効率的に摂れるのも夏野菜の特徴です。

ただし、夏野菜には体を冷やす作用もあるため、次に紹介する体を温める食材を一緒に食べることを意識しましょう。

胃バテの予防・解消に役立つ食材

胃腸の冷えを防ぐためには、体を温める食材を摂ることも有効です。

肉や魚、卵、大豆などに豊富に含まれるたんぱく質は、筋肉を作るために欠かせない材料です。筋肉には体の熱を生み出す働きもあるため、たんぱく質を日常的に摂取して筋肉量を維持、向上させることがが、体を温め、冷えを防ぐことにつながります。

焼いた鶏肉を中心とした定食
意識的にたんぱく質を摂ることも筋肉を作るのに必要
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たんぱく質の摂取目安量は「自分の体重1kgにつき1g/1日」(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586557.pdf)のため、体重60kgの人であれば約60gです。1日3食食べるとして1食につき約20gずつたんぱく質を摂取するために、たんぱく質の豊富な食材を使った料理を毎食1皿取り入れることが大切です。

また、ねぎやしょうがなどに含まれるアリシンやジンゲロールなど辛み成分は、血行を促進して体を温める働きがあります。冷や奴やそうめんなどの冷たいものを食べるときの薬味にするのがおすすめです。

胃バテ対策には漢方薬も役立つ

胃バテ対策には「体を温めて胃の働きを改善する」、「胃腸の消化吸収機能を回復させる」といった効果が期待できる漢方薬が適しています。

漢方薬
胃バテ対策に有効な漢方薬2つ
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おすすめの漢方薬

・六君子湯(りっくんしとう)

体を巡るエネルギーを補い、胃にたまった余分な水分をとり去るとともに、胃腸を温めて胃腸の働きを改善します。胃が弱く、食欲がなくて疲れやすい人におすすめで、胃痛や胃もたれ、食欲不振など消化器系の不調に幅広く処方される漢方薬です。

→六君子湯について詳しく知る

・安中散(あんちゅうさん)

胃を温めて体を巡るエネルギーや栄養の流れを整え、胃酸分泌を抑えることで冷えやストレスによる胃痛や胃もたれに働きかけます。体力があまりなく、冷たいものを飲んだときに痛みが増す人や空腹時に痛みを感じる人に適した漢方薬です。

漢方薬を始める際の注意点

漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。

ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。

◆教えてくれたのは:医師・木村眞樹子

白衣を着た女性
医師の木村眞樹子さん
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きむら・まきこ。医師。

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科に在勤。総合内科専門医・循環器内科専門医・日本睡眠学会専門医。産業医として企業の健康経営にも携わる。自身の妊娠・出産、産業医の経験を経て、予防医学・未病の重要さと東洋医学に着目し、臨床の場でも西洋薬のメリットを生かしながら漢方の処方を行っている。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ1つで処方するオンラインAI漢方サービス「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でもサポートを行う。

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