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女優・秋吉久美子が明かす、いまだ埋まらない亡き母への想い――「どうすれば母を“絶望”から救えたのか」≪独占インタビュー『母を語る』後編≫

死ぬときは“途上”でいい

’24年公開の映画『ル・ジャルダンへようこそ』に友情出演した秋吉(本人提供)
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そんな母への想いが変わってきたのは、秋吉が古希を迎えてから。

「父が76才、母が72才で亡くなっていますから、私も70才になって、最期を迎える心の準備を逆算して考えるようになりました。そして、母の死を通して自分なりの答えも見えてきました。母は満足のいく最期ではなく、途上で生を終えたことが無念のようでしたが、私たちは聖人ではない。キリストでも釈迦でもない。人生を達観せず、途上のまま死んでもいいのではないか、ふと、そう思えるようになったんです。円熟や達観に向かって悩む心の痛み――それこそが人生ではないでしょうか」

20年間埋められなかった母への想いも、途上でいい。達観したいという思いで生きたとして、その途上で生を終えても仕方がない。

「死ぬときは“志半ば”でいいんじゃないでしょうか。母は自らの死を通して、私に大きな課題を投げかけてくれ、そのおかげで私も自分なりの答えに辿り着けました。子を育てるだけでなく、看取らせることもまた、親の務めなんでしょうね」

母の年齢に近づき、そう思えるようになったと、秋吉はやわらかな笑顔を見せた。

 

◆女優・秋吉久美子

1954年、静岡県生まれ。1972年『旅の重さ』(松竹)で映画初主演。1974年公開の『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』(いずれも日活)に主演し、脚光を浴びる。その後も、1977年に『八甲田山』(東宝)、1988年に『異人たちとの夏』(松竹)、1995年に『深い河』(東宝)などで好演。ブルーリボン賞主演女優賞や日本アカデミー賞優秀主演女優賞などを獲得。2009年に早稲田大学大学院公共経営研究科修了。作家・下重暁子さんとの特別対談をまとめた近著『母を葬る』(新潮社)にも“家族という名の呪縛”について語っている。https://akiyoshikumiko.jp/

取材・文/上村久留美