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《潜入レポート・劇団四季『アラジン』》「ビーズ1粒でも誰の衣裳のものかわかる」コスチュームスタッフのプロ意識

青年アラジンと王女ジャスミンの愛と冒険の物語性に加えて、エキゾチックな衣裳や舞台装置の美しさも魅力(撮影/上原タカシ)(C)Disney
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 2015年から30年にわたり、ディズニーミュージカルを上演、計7作品で3200万人以上を動員してきた劇団四季。『女性セブンプラス』では、大ヒットロングランの舞台裏を独占で徹底取材! 今回は『アラジン』から、ランプの魔人・ジーニー役俳優が語った舞台裏、そしてゴージャスな衣裳についても、本誌では掲載しきれなかった情報を盛り込んだ完全保存版で公開します!【前・中・後編の後編。前編から読む

【衣裳スタッフ】10年たってもへたらず色褪せないメンテナンスの極意

公演後は必ず衣裳のメンテナンスを行うという、コスチューム担当の金澤凪紗さん。収納棚にはあらゆる備品がスタンバイされている
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 大量のビーズ等が使用され、鮮やかな色彩とセクシーなシルエットが特徴的な『アラジン』の舞台衣裳。約300着あるという衣裳のなかから、特にゴージャスなジャスミンとジーニーの衣裳について、パーツやメンテナンスへのこだわりをコスチューム担当の金澤凪紗さんに聞きました。

ジャスミンの衣裳4つのこだわり 

ジャスミンの衣裳は揺れるビーズが可憐さを演出 (左:撮影/上原タカシ)(C)Disney
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『アラビアンナイト』のシーンでジャスミンが着用する衣裳には、ターコイズブルーのシルク生地が使われている。

「肌見せを美しく強調するデザインや、隠す部分の美しいドレープが特徴です。ビーズの刺繍はすべて手縫い。基本はアメリカで作られ、微調整は日本で行っています」(金澤さん・以下同)

センターのブローチのような刺繍が豪華。肩紐にもビーズやスパンコールがふんだんに使われている
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後ろのデザインも手抜かりなし
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 とくにゴージャスなトップスの刺繍はぶら下がるビーズも大ぶりで、エキゾチックな雰囲気を高めている。

「さまざまなパーツを組み合わせながら、植物のツルや葉、花などを組み合わせた“アラベスク模様”が刺繍されています。アラビアを象徴する装飾で、日本では唐草模様として有名ですね」

 ジャスミンのハーレムパンツには、サイドスリットが。そこにもちょっとした工夫を発見!

「ゴムをつけることで、激しく動いても肌が見えすぎないようになっています」

 足元にも細かすぎるこだわりがある。

「靴のアッパーに使われているフラワーモチーフを、ヒールにも使用しています。また、淡い色調の花柄は日本スタッフの手描きによるもの。客席からははっきりと見えないところにも、アラジンの世界観を徹底しているんですよ」

ジャスミンの履くゴールドの靴
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生地は特注! ジーニーの衣裳は魔人らしい異世界の神秘性が 

魔人らしさが際立つジーニーの衣裳 (左:撮影/上原タカシ)(C)Disney
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 目にも鮮やかなブルーのジーニーの衣裳は、ベロアに似たソフトな触感。

「アラベスク模様が特徴的なパンツは、クリエイティブスタッフが生地からオーダーして作った特注品。ひざがすり切れやすいのですがすぐに予備が手に入らないので、メンテナンスが欠かせません」

ブルーサファイヤのような宝石が配された肩のデザイン
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 肩部分には宝石を囲むようにゴールドのスパンコールやビーズが配されている。

「魔人なのでこの世のものと思えない神秘性を表現しています」

 ジーニーをランプに縛り付けておく“手枷(てかせ)”。▲や◆などのビーズとアラビックな模様が組み合わせられている。

手枷にもさまざまな形のビーズが。赤いラインに見える部分も、細長いビーズでできている
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パンツに縫い付けられたティアドロップ形のビーズが動くたびに揺れる
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 パンツがキラキラ光るのはこのティアドロップ形ビーズのおかげ。

「重さがあるので、通常のビーズより落ちやすい。欠かせない補強ポイントのひとつです。また、パンツの膝部分は擦り切れやすいので、特にメンテナンスには気を使っています」

 アラビアの世界観を体現する、先端が尖ったブーツは本革製。

「海外から土台が届いたら、表面の繊細な柄は、すべて手で描いていきます」

 基本的に俳優のサイズに合わせて衣裳や靴が準備されるので、つまり、この細かいブーツの絵柄を複数回手描きしたことになる。しかも、つねにメンテナンスを重ねて新品同様の美しさをキープしているとは!

つま先以外、舞台ではっきり見ることのないジーニーのブーツには、ゴールドやシルバーでこの世の造形とは思えない、抽象的な柄が手描きされている
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取れかけのビーズ1粒さえ見逃さない

人気ナンバー『理想の相棒─―フレンド ライク ミー』では、ゴールドの衣裳をまとったアンサンブルが登場(撮影/荒井 健)(C)Disney
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 衣裳から取れたビーズが1粒でもどこかに挟まると、舞台装置が動かなくなる可能性がある。『アラジン』はオートメーションで舞台装置を動かすための溝が舞台にたくさん刻まれていることもあり、ビーズの管理にはとても神経を使っているという。

「『アラジン』の場合、メインキャストはもちろん、アンサンブルの衣裳にもビーズが多く使われているのが特徴です。踊るシーンも多く、しかもアンサンブルは着替えが多いので、ビーズが落ちるリスクが高い。少しでもゆるみを感じたら早めに補強しています。いまではビーズを1つ見れば、誰の衣裳かわかるようになりました(笑い)」

アンサンブルの衣裳は肩紐部分にも装飾が。パーツはひとつひとつ手縫いする地道な作業
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こちらは裾部分。金属製で動くとシャラシャラと音がする。「汗が触れると酸化しやすいので、変色を防ぐメンテナンスも欠かせません」
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 金澤さんは元々バレエ経験者で、舞台に立っていた側。演じるよりも衣裳制作の楽しさに目覚め、劇団四季に入団したという。

「自分の経験が生きている点があるとすれば、踊りやすいラインを保持しながらも、激しいダンスでも壊れにくい頑丈さを作れることでしょうか。いまはどんな動きにどんな衣裳が映えるのかを考えることがやりがいですね」

アラジン扮するアリー王子一行が街を練り歩く『プリンス アリー』のシーンで使われる黄やピンクの衣裳も、絢爛豪華
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 常にメンテナンス待ちの衣裳がラックにかけられているため、スピーディーに手を動かしながら笑顔で取材に応対してくれた金澤さん。こうしたスタッフの献身があってこそ、華やかで艶やかな『アラジン』の世界が作られていると痛感した。

劇団四季の『アラジン』は今年、上演10周年。微塵も色あせることなく輝き続ける舞台も衣裳も、ぜひご堪能あれ!

取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥

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