健康・医療

《「更年期ロス」経済損失は年4200億円》更年期を食事や睡眠など日常の習慣で上手に乗り越えるコツ

項垂れている女性
「更年期ロス」として注目を集めている女性の更年期離職
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「更年期の女性は、ホルモンバランスの乱れによって精神的に不安定になり、仕事に影響が出やすい傾向があります」と薬剤師の山形ゆかりさんは話します。更年期の精神症状は、女性自身はもちろん家計や経済にも大きな影響を与えるため、上手に乗り越えるコツを知っておくといいでしょう。そこで、更年期の精神症状を和らげるホルモンや漢方薬について、山形さんに教えてもらいました。

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更年期障害によって離職や収入減少も

日本全体で見ると、女性の更年期離職による経済損失は年間4200億円にものぼると試算され、「更年期ロス」と呼ばれ注目されています。

NHKが行った「更年期と仕事に関する調査2021」によると、更年期症状のある女性の15.3%が更年期障害が原因で離職、収入減少、雇用形態(正社員から非正社員)の変化などがあったと回答しています。(NHK実施「更年期と仕事に関する調査2021」結果概要 ―仕事、家計への影響と支援について https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/collab/nhk-jilpt/docs/20211103-nhk-jilpt.pdf

更年期障害における精神症状が仕事に及ぼす影響

更年期障害における精神症状には、イライラ感や不安、孤独感、落ち込み、うつ、やる気の低下、不眠などがあげられます。

ソファに座り頭を押さえる女性
離職や昇格の辞退につながることもある更年期の精神症状
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このような精神症状によって、仕事がうまくいかずに離職や昇格の辞退などを選ばざるをえない状況に陥ることがあり、社会的、心理的に疎外感を抱く人も少なくありません。

更年期の精神症状はホルモンバランスの乱れと心理的負担が原因

更年期の精神症状自体は、女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少し、ホルモンバランスが乱れることによって引き起こされます。エストロゲンの減少は気持ちの落ち込みに関与し、ホルモンバランスの乱れは自律神経に影響して精神を不安定にさせます。

また、更年期の精神症状の悪化は、環境が要因になっていることもあります。

たとえば、先述した「更年期と仕事に関する調査2021」では、つらい症状が起きても「休みやすい環境だった」「上司や同僚に配慮してもらった」など何らかの支援を受けられたと回答した人は全体の約30%しかいません。残りの約70%は、とくに支援を受けていないと回答しています。

支援を受けられない更年期の女性は、精神症状により離職や昇格の辞退、降格など雇用劣化が起きやすく、ひどい場合にはハラスメントや嫌がらせをされることもあります。このような環境でストレスを感じ、さらに精神症状が重くなる悪循環に陥っているケースも多いのです。

パソコンで作業する女性
職場での支援が受けづらいことも更年期ロスの原因の1つ
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さらに、40代、50代の女性は、子供の受験や巣立ち、親の介護や別れなど、心理的負担がかかりやすい年代のため、自分では気づかないうちに心身が疲れ、精神症状が悪化してしまうこともあります。

更年期の精神症状を和らげる方法

更年期の精神症状の緩和には、成長ホルモンと幸せホルモンの分泌を促すことが有効です。

成長ホルモンで体を癒す

体が元気でないと、心も元気になりません。まずは、あらゆる細胞の再生に必要な成長ホルモンを分泌させて、体の疲れを癒しましょう。

成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌されますがそのピークは、入眠直後の深い睡眠(ノンレム睡眠)中です。そのため、スムーズに深い眠りに入れるように、生活習慣を整えることが有効です。

ソファに座る女性
質のよい睡眠で成長ホルモンを促すことも有効
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たとえば、毎日同じ時間に起床・就寝する、夜は間接照明に切り替えてリラックスできる環境を整える、寝る前のスマホやパソコンをやめる、就寝の1時間前に入浴するなどが、スムーズな入眠に役立ちます。

幸せホルモンで心を癒す

セロトニンやオキシトシン、ドーパミン、エンドルフィンなどのホルモンは、一般的に「幸せホルモン」と呼ばれています。幸せホルモンは、ストレスや不安、イライラを軽減させて幸福感を高め、精神疲労を癒す効果が期待できます。セロトニンは、心と体の健康の基本となるホルモンです。朝起きたら日光を浴びる、ウォーキングやサイクリングなどの一定のリズムを重視したリズム運動を20〜30分間行うなどして、セロトニンを増やしましょう。

ランニングをする女性
セロトニンの分泌にはウォーキングなどのリズム運動も有効
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オキシトシンは、スキンシップや感謝する気持ちなどによって分泌が増えるホルモンです。家族やペットと触れ合ったり、友人と楽しくおしゃべりしたりすることで分泌されやすくなります。ドーパミンは、楽しいことをしているときや目標達成時などに分泌されます。具体的には、好きな音楽を聴きながら作業する、達成しやすい目標をこまめに立てることなどが効果的です。

エンドルフィンは脳内の「報酬系」と呼ばれる神経回路に多く分布し、おいしいものを食べたときやきつめの運動をしたときなど、何かを達成して報酬を得たときに分泌されます。植物を育てる、好きなものを食べるなどの方法で分泌を促しましょう。

幸せホルモンを食事で増やす方法

幸せホルモンを増やすには、ホルモンの材料になる栄養素を食事から摂ることも大切です。セロトニンを増やすには「トリプトファン」、ドーパミンを増やすには「チロシン」を摂取しましょう。トリプトファンとチロシンは、乳製品(チーズ)や大豆製品(納豆、豆腐)、ピーナツ、バナナなどに多く含まれています。

さらに、トリプトファンとチロシンの吸収には、「ビタミンB6」も必要です。肉や魚の赤身、バナナ、赤パプリカなどに含まれているビタミンB6は、水に溶けやすく熱や光に弱い性質があるため、できるだけ新鮮な食材を生で食べることで効率よく摂取できます。

皿にのったバナナ
トリプトファン、チロシン、ビタミンB6のすべてが含まれているバナナ
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バナナは、トリプトファン、チロシン、ビタミンB6がすべて含まれており、そのまま生で食べられるため、これらの栄養素を手軽に摂るのに最適な食材です。また、好物を好きなだけ食べたり、辛味成分である「カプサイシン」を摂ったりすると脳は「おいしい」と感じ、エンドルフィンの分泌が促されます。

さらに、家族や友人と楽しく食事をすることは、オキシトシンの分泌にも役立ちます。

女子会
家族や友人と楽しく食事をすることもオキシトシンの分泌に◎
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更年期の精神症状を和らげる漢方薬

更年期の精神症状の改善には、婦人科でも使われている漢方薬を活用するのも有効です。

精神を安定させる」「ホルモンバランスの乱れを整える」「ストレスを軽減する」「肉体的な疲れを軽減して、落ち込みや不安を軽減する」といった作用のある漢方薬を選び、ホルモンバランスの乱れを整えたり、ストレスや過度な心労などにアプローチしたりして、症状の根本改善を目指します。

さまざまな生薬
更年期の精神症状を和らげる漢方薬を2つ紹介
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おすすめの漢方薬

・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

体の熱を冷まし、イライラや神経の高ぶりを鎮める作用があります。精神不安、動悸や不眠などの症状に用いられます。

→柴胡加竜骨牡蛎湯について詳しく知る

・加味逍遙散(かみしょうようさん)

ホルモンバランスの乱れを整え、精神を安定させる漢方薬です。気分の落ち込みやイライラなどの精神的な症状、ホットフラッシュ(のぼせ)の治療に用いられます。

→加味逍遙散について詳しく知る

漢方薬を始める際の注意点

漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。

ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。

◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

白衣の女性
薬剤師の山形ゆかりさん
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やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信する「Medical Health -メディヘル-youtubeチャンネル」(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。

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